義父の思惑7
例の有名な洋酒会社のロゴが見えて来れば大山崎に着いた実感が湧く。直ぐに国道から脇道に入り疎らな民家を数件過ぎて雑木林の先に拓けた広場に行き当たった。
「随分と辺地な所に住んでいるんだなあ」
今まで描いた冒険家のイメージを通り越して気の毒そうに社長は車を降りた。越村が先導してインターホンで来訪を告げ社長は名刺を渡して、そのまま台所より霧山さんのご都合を聞きたいと奥さんに居間に通してもらった。室内は前回と変わらず楯や表彰状が所狭しと飾ってある。
「彼はこのために生きて来たのか」
ポツリと社長は感心することもなく呟いた。しかし次の言葉には驚いた。
「結局は過去の栄光に押し潰されて仕舞ったか」
今は社会人として働いてる越村にも、学生登山で鳴らした過去があるだけに胸が軋む。
こちらの提案に問題なく、妻と話し合って異存がなければ任せると霧山に云われた。
「料金について決めるのは奥さんでなくご主人でしょう」
「それも話し合って妻が満足すればそれで結構です」
海外の山を巡っている登山家には面倒くさいのかアッサリとして、奥さんに案内されてキッチンに移動した。せっかく張り切っていた社長も肩透かしを喰らった。キッチンルームで奥さんから流し台の導線を聞いて、それに見合うシステムキッチンを探して改良すればいいだけだ。これなら別に別所さんでも済んだ。そこで社長は巻き返しを図った。
「これからお二人で暮らすんでしたら、奥さんのご都合が大事ですが……、どうですかご主人もキッチンに立たれるようにしませんか」
これには越村以上に奥さんが「主人の都合を聞くなんて」と目を丸くした。
「先ほど部屋を見たところ、ウイスキーもかなり置いてあります。ご主人が呑まれるのならウイスキーに合うあてもご自分で作られませんか」
「最近はそう謂う傾向になって驚いています」
と奥さんはそうなると尚更に不便なキッチンに困惑顔だ。




