義父の思惑6
「それより裕司だ。何とかならんか」
「どうして欲しいんです。彼にお父さんの会社の仕事をやって欲しいのですか?」
「無理だと今まで思っていたが、スポーツ用品の売り上げを伸ばしていると聞くと俄然変わった」
「どのようにですか?」
「それをこれから霧山に会って決めようと思っている」
今朝の散歩で話を聞いても暫く躊躇して、別所さんと営業に出るギリギリで決めるところは、熟慮より勘を働かせて此の車に飛び乗ったようだ。
「それで何を訊くんですか」
「冒険家としての霧山の側面を観てみたい」
「冒険家は側面だけでは何も解りませんよ、真っ正面から観ないと」
「フーン、その根拠は何だ」
金銭面は別にして、自然に対する畏敬の念に裏も表もない。
「そんなものありません」
余りにもきっぱり言い過ぎて社長は唖然としている。地道に築いて来た社長にすれば、到底受け入れがたいに違いない。それがチャレンジー精神だと解っても、その違いをこの目で確かめて、息子の進路を見極めようとしているのか。
「そこに未踏走破のルートがあれば挑む。それだけで根拠なんて存在しない。あるとすれば名声だけでしょう。社長のように家庭内に於ける食事の団欒をより一層楽しいものにする理想は冒険家にはないんです。自然に対する征服欲しかないんです。だから見てもらえば一目瞭然、これで霧山さんが家庭に収まるのなら、奥さんは流し台を真っ先に変えたいと望まれたのです」
「そんなに使い勝手が悪いのか」
「テントで携帯食料ばかり食べていた人が、家の台所事情なんて見向きもしませんよ」
住む次元が違うのだ。
「子供は居るのか?」
「ええ、でも早くに親元に見切りを付けて誰も寄り付きません」
「虚しいもんだなあ、冒険家は」
家庭を顧みる余裕があれば誰も冒険なんてしない。
「そんな気持ちでは、極寒の自然と対峙出来ません。それを石塚に求めるのは無理です。暫く彼の歩むゆくてに何があろうと黙視するしかないでしょう」
社長は別所さんと違って抜け道を知らなくて、混んだ道を走ったお陰で、石塚の胸の内を少しは伝えることが出来た。




