霧山宅へ3
「この前いらしたばかりなのに、よほど此の前の話に気を使ってくださったんですね」
前回は帰りがけに、珈琲カップを片付ける折に、奥さんはこの流し台で主人と何とかして欲しいと揉めていた。どうもシステムキッチンの販売を手掛けている会社だと知ってわざと越村の前で、これ見よがしに夫に言った愚痴を奥さんから聞いて帰った。
「主人は海外登山の遠征に出掛けてばかりで、何とかして欲しいと思っていたところへこの方が見えられて……」
主人は一年の大半を留守にして、足をなくした一年前からやっと家に居るようになったと、奥さんは今日も越村に夫の愚痴を漏らしていた。
早速別所さんは、流し台の水回りと台所と繋がってる食堂の間取りを調べた。一段落してキッチンテーブルで奥さんと対面し、どう言う状態か説明した。奥さんも古すぎて変えたいようだ。そこで正規の見積もりを渡して、価格に付いては相談に応じますとひと言い添えて引き上げた。
「君は、ここは二度目だと聞いたが、あの家の人とは結構話が通じていたなあ」
お陰で今日の仕事はやりやすくてはかどったと感謝された。
「しかも社長は相当乗り気だ。今朝、君から聞いて直ぐにわしに見に行かすんだから、自由奔放に育てていながら気になるらしい」
社長は次男の育て方に疑心暗鬼になってる。
「石塚はそんなに難しくありませんよ」
「学生仲間だった君と、親子関係の社長では気の持ちようが違うやろう」
これは誰が見ても違いすぎる。親子関係は勘当しても一生心の中に付き纏う。友情は心に宿っても残照の重さが違うのだ。なんせ石塚は社長の次男で、これは娘婿の越村より社長の感情の傾斜が強く、それだけ重みがある。これからの散歩の同行には、その方面に全神経を集中して取り組むことにした。




