霧山宅へ1
社長が立ち合う今日の朝礼は、どうもいつもより熱意が欠けている、と営業に出るなり助手席の別所さんから言われた。
「今日から社長と一緒に通勤するそうだなあ」
何か変わってないか訊ねられる。
「いや、別に、ただ社長の気まぐれに付き合わされただけですよ」
そうか、お前も気苦労が多いと同情された。
「でも、しゃあないなあ。沙苗さんと結婚して同居では。それに引き換え息子の次男坊は結婚しても別居で、しかもスポーツ店の開業資金まで面倒見てもらって偏り過ぎだともっぱらの噂だ」
「沙苗さんとの愛が確かなら、そんなの気にしていませんよ。第一、一緒になっても石塚は今までと変わらない」
「ほうー、そうかね。幾ら籍だけ入れて、式も披露宴も辞退しても開業資金と釣り合うのかと首を捻るやからもいる」
石塚がそこまで頭が回れば、丹波の山里にひと月も籠もりはしない。ビジネスホテルならともかくそこそこの旅館で、寝て喰うだけの滞在費用はバカにならない。
「別所さんは小さい時から石塚を知ってるんですか」
「この会社には長いからねぇ」
長いとはいえ、社長家族の実態を掴んでいるとは限らない。まして次男坊だ。ただ単に顔会わしている程度で、込み入った話はしないのは当たり前だ。
「ただ、子供の頃から見ていて、癖や性格は良く知ってる。例えば小学時代のやんちゃや、お姉ちゃんとの喧嘩は親の気を惹く自己主張だとわしは見ている」
「自己主張?」
「そうだ。元々裕司坊ちゃんはひ弱なところがあってねぇ」
小学校に行くまでは独りで遊んでいた。今と違って此の辺りはそんなに拓けていない。結構あちこちに残っていた雑木林の中で遊んでいた。それが小学校に入ると交友範囲が広がり、その中の悪ガキの影響で良く喧嘩するようになった。裏を返せば今までの自己主張を他人に打っ付ける方法を、悪ガキから取得しただけだ。お姉ちゃんはそんな弟を戒めてよく喧嘩をしていた。悪ガキが転校するとお姉ちゃんに良く負かされていたが、中学生になると体力が逆転して今度は口喧嘩になった。




