義父の想い6
「ところで、何で裕司の話から沙苗や妻の話に戻るんだッ」
そうか、義父が知りたいのは霧山の動向で脱線してしまった。
「霧山さんについては石塚家の人々には理解しにくい一面があるんですよね」
前置きが長すぎたお陰で、硬かった義父の表情が少し和らいだ。
「例えば」
「石塚があの店を取得できたのは登山を通じた澤村さんとの結び付きから生まれているんです」
「それは娘から聞いている」
「ですから、そこを掘り下げて話を進めたいのですが……」
「いいだろう、その方が判りやすく、君も説明し易いのなら一向に構わない」
失った両足を得て、霧山が知ったのは、先ず今までの拘りに終止符を打ちたかった。これは山男にとっては辛い決断だけに、この事故がなければズルズルと断ち切れない未練に引き摺られた。それほど山に導かれた霧山の思いか何処まで伝わったのか義父は暫く考え込んだ。
「そんな過酷な体験が霧山には必要だったのか」
過信とうぬぼれは表裏一体で、これを強調させるのが見栄とプライドだ。これを断ち切るには自分をかなり制する人に限られる。普通の人生であれば一生掛かっても到底及ばない。冒険家の彼の場合は体力の限界を知れば自ずと見極められる。が、これもかなりの高齢でも挑戦を続けるだけの体力作りをすれば無理だ。幸か不幸か彼はその限界を自らの誤った判断で知り得た。これを天の戒めと捉えて今までの精神から脱却した。その第一歩が澤村さんに対する感謝の行動として店の移譲を考えて差し支えない。
なるほど、とこれには義父も納得してくれた。
「それでも、あの店をなくしてこれからの生活は如何するんだ」
それが義父の心配の種なんだろう。
「どうですか、一度霧山さんに会われませんか?」
「却って警戒される」
「仕事の一環で会えばどうでしょう。流し台がかなり使い勝手が悪いそうです」
ホ〜ウと社長は頬を緩めて頷いた頃に丁度会社に着いた。




