義父の想い3
「お父さんには裕司の店が気になっているのよ」
「一緒に出掛けるのはいいけど、お義父さんはいつも手ぶらなの?」
「いつも洋樹さんとは時差通勤で、今日は初めてだけど、家に仕事は持ち込まないのが父の鉄則、憶えておいて」
「でも社長が」
と言いかけて、ここでは禁句でしょうと窘められた。自宅では社長とは一切呼ばない仕来りだ。
「もう一年近く一緒に暮らしていても、休日以外は顔をほとんど合わさないから仕方ないか」
全ての社員と家で仕事の話はしても、身内とは区別している人だ。
「でも結婚する前は長男の純一さんと一緒に暮らしていたんだろう」
「兄さんは跡取りだから、それはもう家の食卓でも仕事の話が飛び交ってお母さんに『いい加減にして』って余り酷いときは云われてたわよ。まあそれで五年前にマンションに引っ越したのよ」
それから家では原則として仕事の話は持ち込まなくなった。それは沙苗さんと一緒にこの家に暮らし始めて、そんな雰囲気は察したが、今日初めて釘を刺された。
「朝の出勤散歩はいつまで続くんだ ?」
「今のところは裕司の店の話が済むまで、あとは気が向いたとき」
「それはいつだ」
「お母さんからあたしに云うと思う、あッ、お父さん、来たわよ。前から楽しみにしてたんだから、くれぐれも店に着くまではお父さんだからね」
沙苗さんに念を押された。まさか義理でも父親と朝から散歩するなんて、世間広しと言えども滅多にいないだろうと、彼女の見送る声に押されて家を出た。矢張り新婚はいいと義父に冷やかされた。聴けばいつも佳乃さんに見送られていたが、照れくさいのか今日は娘だけだった。
義父である社長はいつも早く出掛けても、真っ直ぐ店には行かずに寄り道していく。越村は時間キッチリに自宅を出て行く。今日から暫くは一緒に散歩に出た。朝の散歩と云っても九時頃は通勤の時間帯で、駅やバス停に脇目も振らずに早足で歩く連中の中を、のんびりと進むから気が引けた。




