霧山を訪ねる2
「そうですか、それであなたのお義父さんがあの店の資金援助なさったんですか」
「いくら仲介した人からお構いなくと言われても、不精者の石塚が一段落したところで気になり店を訪ねれば、霧山さんから破格な値で譲り受けて、身内の一人としてそのお礼に伺いました」
「それだけで、他に何かを知りたくてわざわざここまで来たのじゃあないですか」
山を降りればさすがに思慮深い人だ。
「霧山さんが店を手放す話は一度だけで、あとの色々な交渉は司法書士に任されたそうですが。どうしてそうされたんですか」
その話か、とスッカリ気を緩めて自身も飲みながら「ここは湧き水が良くて珈琲が美味い」と勧められた。なるほど、それであの有名な洋酒メーカーがここにあるのかと思った。
「澤村の顔を真面に見られなくてなあ、そうしたんだ」
「なぜ」
「大学時代、わしの判断力は過信している、と散々言われてしまっても直せなかった結果が此のざまだ」
と足を軽くいなした。
「それで顔を合わせられなかった、せめてその償いにと店を娘さんに譲ったのだ」
今更ながら霧山さんの顔には、昔を快く懐かしむ表情が溢れてる。
別に他意はない。彼の真っ当な忠告を実践していれば、こんな怪我もなく遠征には登山隊のリーダーとして、その後も活躍でき、その方面で華やかな噂に彩られて紙面を賑わせたのに。以後は単独登頂に専念しなければならなくなった。その後悔から自責の念に駆られて彼の娘さんならと思っても、矢張りお父さんの存在がちらつくと気になった。それで顔見せ程度にして、以後は代理を頼んでしまった。そう謂う意味合いで彼を毛嫌いするどころか、深い付き合いが出来ればいいが、こちらからは中々言い出しにくかったと控え目に話された。
「あれは大学二年のゴールデンウィークに、一緒に澤村と槍ヶ岳から北穂高に縦走したときだ」




