霧山を訪ねる1
空はあくまでも晴れて澄み切っている。でもまだハナミズキは咲いていない。阪急大山崎の駅から山手に向かって一キロほど竹藪に沿って山手に入り、洋酒会社の見慣れた建物を左に見ながら歩いた。やがてブロック塀に囲まれた瀟洒な住宅が立ち並ぶ脇の道に出た。更に行くと雑木林に囲まれた曲がりくねった坂を少し上がった辺りに、山裾を切り拓いた場所に辿り着いた。奥には山里にあるペンション風のこぢんまりした洋風の一軒家の建物があった。
玄関が普通の作りで民家だと判別できた。余り大きくない家の全体を見ると十分に凝った建物だ。呼び鈴を押しインターホンに向かって澤村さんの年賀状を見て来た親戚筋の越村と名乗った。暫くして静寂そうな顔立ちの四十代半ばで、髪を後ろで束ねたほっそりとした和服の女性が出て来た。玄関を上がって直ぐの洋間に通された。居間と兼用なのか棚には制覇した山の記録写真が飾られ、記念のトロフィーも幾つか置いてある。
ソファーに座りそれらを見るうちに霧山は来た。角張った顎に髭剃りあとが青々として、著名なアルピニスト達が断念した未踏峰ルートに拘った精悍さが滲み出ている。
どこまでが義足か判らないほど、一年でここまで身に付けたのか、器用に目の前のソファーに座った。直ぐあとに奥さんなのか、玄関であった女性がロウテーブルに持って来た珈琲を置いて軽く会釈して出た。
「澤村とは娘さんを通じて去年、久し振りに出会って、あなたはその身内ですか?」
「澤村の娘さんとは、一緒に北アルプスの槍ヶ岳山荘のバイトで知り合い、今店を任されている澤村の娘さんと結婚した石塚の姉と結婚して、そんな関係で霧山さんをお訪ねしました」




