石塚の苦労3
沙苗さんにすれば、響子さんの忍耐力には頭が下がる。
「どうだ、もう一年近く接客をやって、少しは今までの自分を反省してるか」
別に響子さんに不満はない。それどころか傍が見れば、石塚がここまで出来て感謝している。それでも世間からすれば少しズレていた。
「ああ、それより今日は直ぐに淀屋橋まで足を延ばせられたのも、穂高で鍛えた健脚の賜なんだろう」
「バカいえ、そんなものは一年もすれば廃る」
これだから石塚には気が抜けない。
「それはないだろう」と石塚は呑気に構えた。
やはり石塚は考えが甘すぎる。反省の色がない。
「人間生まれた時から死に向かって老化が始まってるんだ。毎日それを意識してる奴と流される奴との違いで人生が大きく変わる。その瀬戸際で勝負出来るかで、人の値打ちが決まってしまう」
だから働けと越村は云っている。
「売る方は響子さんなら、仕入れはお前がやってるのか」
「この人、学校とかスポーツクラブをこまめに廻って、まとまった注文を取って来るからあたしより多いかも知れないわね」
「それはたいしたもんだ。こっちは年季の入った人が勧めても決められなかったシステムキッチンの注文をやっと取れたところだというのに」
「近江八幡の新興住宅で取った分ね。アレお父さんも感心してたわよ」
「でもね、結構時間掛けて通い詰めて取って来るから、本当に成約出来るまで気が滅入るんだ。石塚はどうなんだ。取れないこともあるのか」
「学費の高い私立の学校なら粘り勝ちで、いい値で仕入れられる」
以前のようなダルマとはひと皮剥けて、それで用のないときは、いつも店の穴蔵に籠もって大量注文の成果を待ってるのか。
「そんなもんは、今日こうして呑む機会がなけりゃあ判らんだろう」
なるほど、それで響子さんが石塚を上手く手なずけているのが理解できた。
投資した資金を早期に回収するには、ここは石塚に奮起してもらわないと実家か危うい。そのためには常に実りある関係が必要だ。恋心だけで動いていたあの頃とは違って、今はそれぞれの道を歩いてるんだ。




