石塚の苦労1
味噌焼きお握り、鶏の唐揚げ、肉豆腐、鰹のたたき、ししゃもの南蛮漬け、いか焼き、アジのたたき、フライドポテト、手羽先唐揚げ。
まるで芦生の原生林を響子さんと歩いたあの日に浮かれるように、値の張らないものばかり食べては呑んでる。
「響子さん、あの時はどうだったんですか」
「これ程食い意地が張ってるなんて、思いもよらなかったのに……」
「俺も学食ではいつも石塚は、回りがガツガツ食べているのに、どこかのお坊ちゃんかと見紛うほどだったのに……」
「それはあたしも吃驚している」
長年実家で一緒に暮らした沙苗さんもこの変化に戸惑ってる。前兆はあった。授業を終えて吉田山での登り下り十回の特訓からよく食べるようになった。すると今まで上品に見えた食事もダルマの如く動かなかった所為なのか。
「裕司さん、みっともなくて、あたし恥ずかしいわよ。家では何も食べさせてないと思われそうで」
「響子さんより、あたしの方が実家で自由気ままに育てた反動に見られて恥ずかしいわよ」
「おい石塚、聞いてるのか。お前の極端な態度で二人とも困惑してるんだ」
姉と彼女の気を引き留めるような行動を取ってる魂胆は何なのだ
少しはペースを落としたがその分、ビールのペースが上がった。食い意地も良くないが飲み過ぎはもっと良くない。
「大学では毎日俺とああでもないと議論しまくってたのに、ここ一年、環境の変化と慣れない仕事でゆっくりと顔を合わさなかったが、何か悩みでもあったのか」
「今までが気楽すぎたと反省しているんだ。その思いがここに来て一気に食欲で満たしてしまっただけさ」
「仕事に関しては響子さんは何も相談しないんですか」
「そうでもないけど、ただ難しい顔でいつもあの狭い事務室にいるから気が引けて……」
「裕司、あんたいつもあの店で何をしてるのよ」




