石塚の店3
「で、どうだったの」
本来なら弟が聞くべきなのに、当の石塚はまだビールのジョッキを抱えていた。隣で響子さんは酎ハイを置いて沙苗さんから成果を聞かれた越村に眼差しを向けた。
「気になって仕方がないなら自分が行けばいいのに」
一番肝心な石塚がこれではと澤村さんは彼をとっちめてる。
「行ったところで父は、裕司と話すことはないのよ」
そうだなあー。今朝は両親が食卓で、息子の店の経営状態を越村の前で話していた。裕司に関しては両親や姉より、唯一の学友の越村が一番話しやすい相手だった。そんな両親の無言の催促を背中に受けて越村は、石塚の店に元のオーナーについて聞きにやって来たのだ。
石塚は次々と並べられた料理に手を付け出している。やれやれこれからお姉さんに説明だというのに、食い意地の張った石塚に眉を寄せた。
「霧山さんについては、数年一緒に登山をした響子さんのお父さんにも会いましたよ」
まあッ、そうなと越村には申し訳ない眼差し見せ、子供自分ならとっくに張り倒している弟を睨んだ。響子さんに小突かれて石塚は食べる箸を止めて顔を起こして周囲を覗っている。
「僕の見立てでは心配ないけど、ただ足の痛みがどれだけ心の中に残っているのか余程の身内でない限り見当が付かないだろう」
「どうして独りでそんな危ない場所へ行くのかしら?」
沙苗さんの問いに、冒険家が安全な所しかいかなけゃあ、それはただの人だと響子と越村は目を合わせた。
「姉貴、俺も最初はそう思った。でも登山で足がびびり出して最近その意味が判った」
武奈ヶ岳登頂がやっと効いたようだ。石塚は言って聞かすのでなく、実体験で判らすのが一番なんだ。
「石塚、お前、あの秘境の芦生で、案内してもらった菅原さんから気になった足腰の話を聞かなかったのか」
響子さんの顔が少しはにかんでいる。そうかあの時は彼女以外は眼中になかったのか。あの時は響子のために翌日同じ場所を案内してもらった。アレが恋の道行きの始まりなら、実家も軌道に乗るまで力を入れたいのだろう。




