石塚の店2
「霧山さんとここで一度会ったのか」
「無精髭の山男を想像していたが、短い事務的な話ばかりで山男とは掛け離れすぎて、何も気にならないほどの紳士だった」
会ったのなら淀屋橋に行く前に云えと言いたい。
「そりゃあそうだ。山を下りればスッキリさせたいのも山男だ。それでも響子さんに父から聞いてくれと頼まれたんだ」
「一緒に登山した経験があるから俺たちより話しやすくて頼んだのだろう」
「まあなぁ、ただ義父が、どんな相手か知らないだけに、気に掛けていた」
そんなに真剣に考えなくてもいいが、義父は石塚の為なら無理をする。それに応えて石塚は売り上げを増やせばいいが、この男の表情は硬いままだ。
陽が暮れかかれば、河原町に比べ人通りが少ない御池通は店を仕舞うのも早い。
店じまいを始めながら、河原町ならもう一時間は店を開けられるのに、家賃を考えると難しいと彼女は唇を噛み締めた。そんな湿っぽい話になるのならここはぱあーと呑むかと景気づけた。先ず響子さんが同調して石塚を引きずり出し、沙苗さんに連絡して四人で木屋町の居酒屋へ呑みに行く話がまとまった。
沙苗さんが予約してくれた木屋町三条下った店に入った。
武奈ヶ岳登山以後は顔を合わすだけで、今日は久し振りに呑むことにした。店は週末でなく空いて、沙苗さんはもう既に四人掛けの座敷のテーブル席で待っていた。
「お父さんは開店一年目なのに、もう裕司の店の売り上げを気にしている。頼まれたわけでもないのにそれを小耳に挟んで洋樹さんは店の状況を調べにきたのよ」
実家の店もギリギリで、裕司に投資した資金を回収できれば楽になる。そんなところで忖度して、越村は店の内情を観に来ただけ、と沙苗さんは説明しても矢張り気になる。
沙苗さんはメニューを手に取り、店員を招き寄せて片っ端から一品ものを次々と注文し、足らないものをどうぞとメニューを寄越した。が、先に石塚が取って追加を頼みだした。身内同士で注文を取り合うのか。彼女が弟の好みも注文していれば普通は俺たちに廻すのに、と石塚からメニューを受け取った。飲み物は酎ハイとビールだ。飲み物は直ぐに来て乾杯する。これでやっと武奈ヶ岳でワイワイ騒いだ笑顔が戻った。




