霧山論3
顔を合わしても以前と変わらないのは、あれから無下には出来ないと霧山は感じたのだろう。
「冬山でペアを組んで、心に通うものがあったんだ。君もそうだろう」
「いや、僕の場合はいつも単独でした」
「そうか、自分の体力に応じて登る山を計画してたのか。そこが霧山と違って娘も感心していた」
「でも 響子さんも単独で登るのが多いようですね」
「それは判断力を養えって言ったわしの影響だよ」
霧山も人間性はいい奴なんだが、自然への征服欲が絡むと独断行動で突っ走る。あれから何度も言って聞かせたがダメだ。それどころかスッカリお互い、一緒の登山だけは避けてしまった。
「じゃあ、霧山さんと一緒に登った経験から残ったのは、あの人が自信家ってことですか」
「彼のイメージはそれだけだ。あとは気のいい奴の一点だけで、別々の人生を歩んでしまった。まあ、けして卑屈になるのも良くないが、無理押しするのもその内にえらい目に遭うと解っていたが、人生を失わずに足だけで良かったんだ。何処かでもっと早くポイントを切り替えれば良かったのに」
「霧山さんとの分岐点はあの大キレットですか」
「そう謂えば君の場合は、槍ケ岳で山荘生活をしていて、大キレットで判断力を鍛えたそうだなあ。娘とも一度行ったそうだが。あの時は的確に次の岩場のポイントを指示してもらって勉強になったそうだ」
あのシーンを思い浮かべると、自分に無いものを彼女は石塚に感じたのか。
霧山は一年前に両脚を失って自信喪失してるのか、それとも卑屈になったのか。あれから会ってなくて解らない。それでも山男の心意気だけは持ち合わせていると聞かされた。
今の越村には取って付けた言葉に聞こえた。
「山男の心意気ってまだ生きているんですか」
共に志をひとつにする。それで山男の心意気が存在しても、単独登頂する者にはそれだけでは相容れない気がする。




