霧山論1
京阪電車淀屋橋駅近くの喫茶店で越村は待ち合わせた。新淀川から別れて淀川旧流路の大川は中之島で更に別れて土佐堀川になり、中之島の中間辺りが淀屋橋だ。交通を考えると大阪なら梅田が待ち合わせには便利だが、敢えて言うなら淀屋橋の方が落ち着く。淀屋橋のショッピングモールにある喫茶店から、土佐堀川を眺めていると響子さんのお父さんがやって来た。
「いやー、大阪で人に会うときはいつも梅田にしているが、越村さんから面倒だけど淀屋橋まで足を伸ばして欲しいと言われても、こっちは何も気にしていないんですよ」
響子の父とは一度だけ京都に来たときに、彼女から紹介してもらった。この気さくな挨拶で以前と同じ山男の共感が伝わった。それ以来響子さんから色々と越村の事は耳に入っていたようだ。
お互いこの場所が気に入って、頼んだ珈琲を上手そうに飲み話し始めた。
「今日は都合が良かったかですか。たまの休みなのに呼び出して申し訳ない」
「あなたのお陰で娘が片付いて、あとに残った息子が焦りだして助かってます」
澤村さんは両親と兄の四人家族だ。期待した息子さんは平凡なサラリーマン生活を送ってるだけに、娘の響子さんには相当期待している。
「今日、娘がくれた電話では、霧山さんについて知りたいとか」
「そうです」
霧山とは大学時代に一緒に山に登った事がある程度だった。もちろん娘には霧山については何も話してなくて、今回のことでは娘も同じ山岳部の紹介だけで、あまり知らず寝耳に水だろう。そんな訳で詳しく知りたくてもわしの知ってる範囲は知れてる。登山に凝った霧山は終いには学業を投げ出して、海外の山を片っ端から登って、大学時代の彼は数年しか知らないと申し訳なさそうに語ってくれた。




