石塚の店7
来店しても石塚は奥に籠もっている。動き回っているのは彼女だけだ。
「ここは響子さんがすべて仕切ってるのか」
「仕切ってるなんて人聞きが悪い」
彼女は満更でもない顔で石塚の顔を伺い見た。あの唐変木は自分に注がれた彼女のラブコールに近い笑顔に、眉間に皺を作って素直になれない男だ。
「これでよく我慢してるんだなあ」
「本当はにやけたいのに、仏頂面するところが可愛いと思える人だから、しょうがないでしょう」
「おい、聞いたか、幸せな奴だ。大事にしろよ」
石塚は驚いた。
「なんだ、急にどっか行くのか」
「今は何処にもいけゃあしないだろう。お前の実家の仕事を覚えたばかりなのに」
半ば呆れて笑い飛ばした。
「そうなのよ、本当はあなたがやる実家の仕事をこの人が代わりに頑張ってもらって、感謝しなければ罰が当たるわよ」
小首を傾げてひとつ隣の石塚を見る澤村の視線を、彼奴は耳が痛いのか彼女の熱い眼差しを外してしまった。越村が居なければデレッとするくせに。なんだ此奴は。あれほど彼女を惹き付けたくて芦生の原生林では、案内の営林署の人もそっちのけだったくせに。もう一度あの世界に戻って頭を冷やせと言いたくなる。彼女に深入りしたあの頃が懐かしいのか、新婚ならまだ求め合うものが沢山残っているはずだ。
「俺が真ん中に座っていれば邪魔なようだ。この辺で失敬するか」
「あらッ、久し振りに来たばかりなのに、あたしが邪魔ならお二人でお話しすれば」
そうはいかない、石塚より澤村さんに要件が出来た。新たに知った肝心の霧山という以前のオーナについて聞かなければ。
「前の持ち主ついてもっと知りたい。けど、どうやら石塚は何も知らないようだし……」
澤村さんに説明を求めた。




