石塚の店2
沙苗さんの両親は結婚には賛成だが、二人がここまで来るには紆余曲折があった。沙苗さんは大学を出ても、ひとつ歳下の越村が大学を出るのを待って去年に式を挙げ披露宴もした。商売上、手広くする意味も含めて仕事関係者や得意先を多く呼んで、二人の意志に反して少し派手な披露宴になってしまった。その所為もあって越村はいっそう義父の仕事に精を出した。越村自身は義父の仕事を手伝うのに躊躇いがないどころか、沙苗さんと一緒なら実家での同居でも良かった。
石塚の場合は一緒になると、あとは澤村さんが何とかするつもりが、賃貸マンションでも店の経費で落とすからと石塚の親が出して、二人でやる店まで資金援助してもらった。籍を入れても結婚式を挙げずに紆余曲折したのは、だいたいこんな金銭面での事情が在った。
一年近く前にオープンした弟の店に、沙苗さんはよく顔を出しているが、越村はまだ数回だ。なんせ沙苗さんとの結婚式と同じ時期に店を開いた所為もあり、越村には義父の手伝いで足が遠のいていた。
何で彼奴がこんな店をやるのか、開店から一年近くなるのに越村は合点がいかない。
「あらー、お久し振り」
ドアを開けると、澤村さんがスナックのママとはひと味違う、溢れる笑顔で迎えてくれた。北穂高のあの大キレットを厳しい表情で、眼前の岩場のどこに手を掛けようかと迷う彼女の姿が一瞬にして吹き飛ぶ笑顔だ。
「どうしたのッ」
元気そうに掛けてくれた言葉で、ここは穂高じゃないと我に返る。
「結婚してからこの一年はてんてこ舞いだ」
「何言ってんの、オープンしてこの一年はあたし達の方が大変だったのよ」
言われてみればそうだ。義父が敷いたレールの上を顧客の家やモデルルームを飛び回ればいいのだ。それに引き替え石塚は開業資金は親が出しているが、顧客は自分で一から開拓しなければならない。




