重なる親の愛3
兄貴達は中学生で新聞配達を始めた。僕もそれに習った。早朝に新聞配達の途中で港を出て行く漁船をいつも眺めて「格好いいなあ」と子供心に何も考えなかった。それを聞いた兄貴は「馬鹿野郎! もし沖で船が転覆したら明日から俺たちの生活はどうなるんだ」と怒鳴られた。よくよく考えるとお母ちゃんはどうするのか、困るだろう。生活はどうなる。お父ちゃんは賢明な生き方をしていると考えさせられた。
「それから両親を見る目が変わった」
「どう変わったの?」
「僕が海に憧れたんだ、親父もきっと憧れたに違いない。でもその時に恋する人が居れば。親父は真剣に愛の重さを考えて今の仕事に就いた気がする。一度聞こうとしても親父の母を見る素朴な目を見るととうとう訊けなかった」
「そうね、限られたお仕事じゃあ。お父さんも築いた愛を護らないと行けなくなるわね」
「そう考えると、愛は生活と直結して、漁師なんて紙一重のところで、毎日お互いを確かめ合って港を出て行けるんだろうか……」
違う、愛の重さより生活の重さに耐えているんだ。一度訊いて見たいが「知りたければ彼女を岸壁に残して漁に出ろ!」ときっと張り倒されるだろう。
「そんなものなの。でも、みんながみんなそうじゃあないでしょう。街中で働いても、いつ事故に巻き込まれるか解らないのに」
「そうだが、確率は極めて低い」
「愛の深さは仕事で決めるものでも、生活で決めるものでもない」
と言う沙苗さんも、その根拠はあやふやだ。
「突き詰めるとどうなのかしら ?」
「突き詰めれば簡単さ、仕事や生活で決まる愛って何なんだ」
ーーこうして二人一緒に紅茶を飲みながら語れるほどほどの愛が素敵と思えてくるほど、漁師町で漁業者以外の家庭に育った僕は気に入っている。
ーーまあそうだけど、確率を考えて恋する人もいないわよ。
確かにそうだと二人は頬を緩めて頷いた。




