母の想い1
今日はお義父さんが用事で夕食を断り、義母と三人で食事を始めた。義母にすれば妙だが沙苗さんと越村にすれば予測は付いた。
越村も食事をしながら佳乃さんと希実ちゃんの違いを箸の動作から全体をイメージしてしてみた。勿論、姿顔立ちは解らず、姿勢やちょっとした仕草や喋り方を初恋の人に置き換えて今日はじっくり観察した。品があって社長夫人に相応しいこの人を選んだ社長の小学生時代は、余り物事を深く考えないタイプだったかも知れない。三上とか言う奴がどれほどの友達か知らないが、もっといい方法を考えられないのか。恋にのぼせて三上の意見に縋っただけで社長自身の思惑じゃない。そうでないと目の前の佳乃さんが余りにも惨めに見える。
食事を済ませて二階の部屋に行った。春とはいえ、まだ寒の戻りがありストーブはその度に復活していた。
部屋に入りストーブの暖気が部屋に回り出すと、ひと息吐いて今日の洋樹は様子が変だと沙苗さんが言い出した。母を見る目がいつもと違っていた。そうかと頷くと、今日は別所さんから聞いた社長の初恋の話をした。
「それは変ね」
父は母一筋だと思っていただけに、少なからず心は動揺した。よく考えれば子供時分の異性に対する憧れを恋と呼ぶには無理があり、恋の本質も突き詰めれば実態は掴みにくい。百人の男女が恋をすれば百通りの恋が存在する。幼い、いや、拙い恋を恋愛経験に入れていいものか悩むが、少なくともお相手の希実ちゃんは入れていた。社長の場合は恋と言うより単なるスターへの憧れに似て、真剣さが欠けただけだ。佳乃さんへの誠実さは疑う余地はない。これが別所さんから得た社長に関する収穫だ。聞いた沙苗さんは、母を真面目に恋した父が、そんな幼い頃の恋と呼ぶには切ない憧れに、嫉妬するどころか笑えて来たのじゃないか。
「おかしいか」
「おかしいわよ」
でもその笑いは少し違う。予期せぬ情報に戸惑いが感じ取れる表情だ。




