社長の話2
「それで良く相手の名前がスッと出るもんですか」
社長は過去の記憶の整理整頓が良くて即応性に富んでいる。
「それでどうしたんです」
河原町は繁華街といっても、河原町通りと寺町通り間にある裏寺町通は、距離も二十メートルも離れていなくてお寺が多く、人通りが少ない通りに喫茶店があってそこへ入った。
「親戚の訪問予定をほったらかしですか」
時間は午前中しか言ってない、それまでに着けば良い。向こうは小学校の六年生だったあの日の恨み辛みがある。捕まってしまえばしゃない。久し振りに喋り出すと会話に花が咲いて長居してしまった。
「そりゃあそうだ。社長にすれば片想いの相手だ」
「まさか、相手もまだ思っていたんですか」
「憎しみと愛は紙一重なんだ」
そんな言葉を別所さんの口から出るなんて似合わない。でもここは話の腰を折るわけには行かない。
「別所さんも情熱的な恋に憧れているんですね」
と話を繕った。
「そりゃあそうや、恋を人生の棘にしてはいかん。刺さったままの恋なんて、死ぬまで心の中に醜く残り続けるだろう」
こんな教訓が出るのは矢張り年の功なんだ。
「じゃあ恨んでたんですか」
「そこがどうも、微妙な処だ。なんせ小六の子供と大人が、彼女の頭の中には同居している子だと、たままた再会した本人が証してくれたそうだ」
集団登校の先導はいつも石塚君の役目で、あたしはぐずる子を宥めて学校へ連れて行く役目だ。なのにあの日は石塚君が休むなんて一度もなかったのに、病気と聞いて大丈夫ならいいけどと心配して代わって先導した。最後尾の見守り役を五年生の遠藤君に「来年やるんだから」と任せた。行たくないと八歳の男の子がぐずった。置いてけぼりは出来ない。遅刻は尚更出来ない。遠藤君は初めてで手を焼いて前と後ろを代わってやった。その日は何とか町内の子供達を学校まで連れて行った。
「それであたしが給食のパンを帰りに届けに行った」
そこでお母さんが「変ね長矩なら今朝学校へ行ったのに」と言われて頭にきて、今朝がた休みを知らせに来た隣町の三上君をとっ捕まえて白状さした。でも三上君は石塚がずる休みした理由は言わなかった。




