営業に出る9
「その後、社長の初恋はどうなったんです」
「それがムラムラしているうちに卒業してしもて、でも次の三年間で何とか打ち明けたいと思っているうちにその子、中学生になると直ぐに引っ越して転校してしもて、かなり落ち込んだ。それで今の奥さんの時には一念発揮したそうだ」
「奥手な人でもないんですね」
「ウ〜ン、どうかなあ」
別所さんに言わすと、女性に関しては奥手な方だと言った。その根拠に上げたのは、娘の沙苗さんが対照的で、好き嫌いがハッキリして、母親もそんな所がある。結局は奥さんの佳乃さんがプロポーズさせるように社長の意識を持っていって、あとで焦れったい人だと言われたそうだ。
「じゃあ社長の性格は、次男に受け継がれたんでしょうか」
「裕司坊ちゃんか、彼は子供の頃は結構やんちゃだった。最近は沙苗さんに言わすと達磨大師みたいだと聞いたが、越村君とは大学四年間一緒でどうだった」
越村がこの会社に勤めだして、石塚の放蕩は良く聞かされた。その都度、本人はそんな大それた考えは持ち合わせていないと弁明に努めても、あの丹波での逗留に一社員二ヶ月分以上の人件費に匹敵するのには呆れた。別所さんも若いときは見聞を広めるのは将来の投資になるそうだが、石塚には当てはまらない気がする。
「石塚は大師の付かない、動くのが面倒くさいただのダルマですよ。とても社長のような起業家精神とはほど遠い」
「そうか、しかし大学を出てからスポーツ店をやってるそうだなあ」
「開業資金だけは、親が出してるんでしょう」
「もう一年近く持ち堪えているってことは、初心者にしては上々だと思うが、どうなんだ」
そう言われても社長も一からやり直している。これには別所さんも思い当たるものがありそうだ。




