営業に出る7
行きしなとは方向が逆なり、運転席から琵琶湖がよく見えた。別所さんは昼食に湖岸沿いの道を指定した。そこに琵琶湖がよく見えるレストランがあるらしい。
「その店にはよく行かれるんですか」
「まさか、こんな遠くまでいつも来るわけないやろう」
それもそうだ、顧客の帰りに纏まらない商談の憂さ晴らしに、窓側の席から琵琶湖を眺めていたそうだ。
「では、今日は逆ですね」
「そやなあ、今日は商談が纏まって、あの当時はこうして社長と身の上話をしたもんや」
今日は琵琶湖を眺めながら聞かしてもらえるとレストランに入った。障子ガラスの引き戸を開けて暖簾くぐる店とは全く畑違いの湖岸沿いに張り出し、さながら水上レスランの如く、入り口も南国を思わす飾り付けが目を引く店だ。大理石のフローリングタイルに鮮やかな色調で彩られた床を歩くと、おあつらえ向きに琵琶湖がよく見える場所が予約席のように空いていた。
若者にはいいが、この歳ではこの店が和食ならもっと良かった。それではこの場所の雰囲気に合わない。矢張り玄関はともかく、湖岸にせり出した店の奥はガラス張りが客に受けてる。一番奥の席は足元から視野一杯に広がる琵琶湖が見渡せる。これじゃあ気持ちも高揚して腹の都合を無視して洋食でも食欲を注がれる。しかもシーフード好みに誂えればこの景色とマッチして慣れぬ胃にも精神的な負担は掛からない。
席に着くなり細身の如何にもウェイターの制服が似合う中年の男が注文を聴きに来た。
スパゲティーナポリタンにシーフードとサラダでコーヒー付きを別所さんが頼むと越村もそれに合わせた。出された水を飲むとカルキ臭くない。まるで今湖面から汲み上げたような爽やかな口当たりが喉を潤して胃に流れ込んだ。




