揺らぐ世界:04 麦酒
「はぁぁぁぁ疲れた」
想定よりも道中の祭壇で時間を費やしてしまったため、次の街に着いたのは既に日が落ち掛ける頃だった。
意識朦朧だったナヴェットに何とか夕飯をとらせ、寝台に押し込んでから二人は宿の食堂で向かい合っていた。
「さすがに今日は他人とは飲まんわ。自腹でいい」
「本当はこの辺りにも変なこと起きてないか確認したい所だけど、さすがに今日はねえ」
肉体的にも精神的にも、疲労が激しい。ので二人で夕餉を済ませることに異議はないのだが、自腹であってもそれだけ飲むのか、と並ぶ麦酒の杯の数にシャラは感心する。
「でもたったあれだけ叩いただけで、あそこまでユラが集まるなんて……やはり普通じゃない」
「この辺まで影響が出てるなんて、本庁もたぶん把握してはいよね。なまじ『豊漁』なんて良い現象だけに」
「報告するか?」
「それはあの村の正式な担当者に任せよう」
二人の祭儀により、溜まりすぎたユラは各地へ均されたはずだ。
その後も滞留しすぎないよう、周辺の密度に応じて対流の強度をある程度自動調整するような流れを加えておいた。今後は定例祭儀だけでも、周囲とバランスをとるだろう。
「はぁ。しかしナヴェットには参ったねえ。あの子もいっぱい何か抱えてるだろうにねえ」
シャラも発酵イワシのオイル漬けで麦酒を飲み下しながら、独り言のようにつぶやく。
「嫌なんだけどなあ、クライアントに肩入れするの」
「シャラは大胆なようで臆病だしな」
「慎重と言ってよね」
それはシュロが傷つくのが嫌で培われてきた側面もあると言うのに、人の気も知らないで。
「でもまあ……お土産持って里帰りできるように、してやりたいよな」
「うん……」
シャラもシュロも、まだその新発見されたと言う祭壇を見ていない。
自分たちとナヴェットの力で、もし安定させることができたら。
それを長官に報告することができたら。
それがナヴェットにとって喜ばしい結果になるのだと信じたい。
「酒、少し増やそうかな」
「増やすの!? 減らすんじゃなくて!?」
さすがに声を荒げずにはいられなかった。
「いやだって、ナヴェットが知られたくないこと、見ないようにしてやりたいだろ」
「ああそういう……」
実際のところアルコールによる酩酊でユラが見えにくくなるかと言うと、そんなことはない。むしろ眩いくらいに見えるようになる。
しかし普段から、恐らくシャラ以上に見えているシュロは、かえって細部が見えにくくなって都合が良いのだと言う。
シャラはその眩しさを嫌って、普段は「程々」に留めている。
「でも駄目です。本気で見えにくくなるまで飲んだら、さすがに千鳥足でしょ。そんな酒臭い人を子どもの側に置けません。あとお金足りなくなる」
「駄目かぁ」
名残惜しそうな声でため息をつきながら、シュロはまた新たに一杯麦酒を空けた。
「それに本人が言うんだから信じてやりなよ。隠し上手だってさ」
「それなぁ」
実は確かに、ナヴェットを見るときに違和感は感じていたのだ。ただ二人の目を持ってしてもそれが何なのかは分からない、勘違いかもと思える程度のものだ。
「ウチらは、二人いて良かったな。それだけは親に感謝だ」
「……うん、そうだね」
どちらからともなく、互いの杯を差し出し打ち合わせる。
飲み込む酒は、程良いほろ苦さだった。




