踊る茶会:04 請求書
――おいおいおい何を言わせようとしている?
急に変わった風向きに、シャラは咽そうになるのを何とかこらえた。
「もちろんです。お二人でなければ、これほど早く地下の遺跡を発見することは叶わなかったでしょう。道中も大変に頼もしく、また親切にしていただきました」
ナヴェットの屈託の無さが苦しい。
「なるほど、発見が早かったですか」
こちらを見つめる少し苦いイヌワシの顔には「お前らまたやっただろ」と書かれている。
「左様であれば安堵いたすな。此度の人選びはリンドウに任せたが、『問題児』と評する声もあると申していた故」
クロツバキが声を殺して笑う。
「おや、長官殿がですか」
おいふざけるな、の思いを表に出すことも出来ないまま、シャラが片頬だけで笑う。
「それは詳しく聞きたいな」
「父様!」
身を乗り出したイヌワシに、シュロが蒼白な顔で抗議する。
「『単独行動を好み協調性がない』『言葉を弄して相手を煙に巻く』『交際費の計上額が異常』」
「……っっ!!」
それぞれに心当たりがあるため、二人の顔が険しく歪む。イヌワシの視線が痛い。
「しかし上げる成果については申し分無いらしゅうてな。『調揺の才と嗅覚には目を見張るものがある』『現地担当者との関係性構築力・もしくは不正を見抜く目も高評価』『野外活動の経験が厚いと伺われ、僻地任務に適している』とも申していたな」
「優秀な若手のようだ。リンドウ殿が羨ましい」
イヌワシが満足げな顔で茶をすする。
「そして決め手だとリンドウが申すは、『恐らく、秘密を扱うのに慣れている』であると。傑作であるな」
自分で言いながら、クロツバキの笑い声が次第に大きくなる。
「はは……はははは……」
「ふふふ…ふふ……」
――いや何この公開処刑?
二人は視線を落としたまま、引きつった笑いを浮かべるしかない。
「リンドウが左様に評すが如何なる人物か気にかかってな、詳しく尋ねると……後見人がクマの別邸の庭師であるとのこと。いやはや驚いたわ」
――ん?
シャラは話の流れに引っかかりを覚えた。
「然あらば案内役を労うも兼ね、客人をお呼びするはこの地が適すであろうと薦めし所、リンドウも賛同してな。予定を変えクマに一席を頼みし次第であるが、喜ばれたであろうか」
「マツリ姉様が最初からご指名なさったのではなく、ですか?」
「この方が然程まで口を出しては、リンドウの面目を潰すであろう。そも、この方は官の面々をつぶさに把握する立場にあらぬ」
あれ? ということは?
「案ずるでない、リンドウは『庭師の子ら』であるを疑うてはおらぬぞ」
では、自分たちが不貞腐れていたのは、勘違いであったのか?
シャラとシュロは顔を見合わせた。
「ナヴェット殿がお望みとあらば、リンドウも異はあるまい。あとは当人たちが望むか否かであるが」
優雅さを意図的に悪用した笑みをクロツバキが浮かべる。
「お二人もナヴェット様のお力になりたいと仰っていましたので、きっと喜んで承諾すると思いますよ」
「言葉を弄する」だなんてクロツバキや長官に言われる筋合いはない、と思いつつシャラが答えた。
「承知した、それもリンドウに伝えよう」
「ああリンドウ様には是非合わせてお伝えいただきたいのですが」
隠しきれない恨みが、二人の表情に滲む。
「抜けた穴のアフターケアは、もっと真面目に指示なさるがよろしいかと。だ、そうです」
「『現場の裁量の尊重』と『丸投げ』を混同なさいませんように。ともお伝えいただきたいとのことです」
「相分かった、伝えよう」
クロツバキの笑いが一層大きくなり、手では口元を隠しきれなくなってきた。
「さらに、『調揺官のお二人』からはこちらも預かっておりまして」
出すなら今だろう。シャラは懐から取り出した紙片を、クロツバキとイヌワシの間にスッと差し出す。
「遺跡からこちらへの移動に要した交通費の請求書だそうです。『間に合うならいくらかけても構わない』と仰せだったので、とのことでした」
「何だこの額、小隊で移動でもしたのか!?」
「ほぼほぼ『飲食費』ではないか、雛鳥たちが悪い遊びを覚えたようであるのう」
その額を見てイヌワシは目を剥き、クロツバキはとうとう身をよじらせて笑い出した。
「なあマツリ、これって鎮樹庁に回していいやつか?」
「この内訳書ではのう、リンドウは受け取るまいな」
「おいおい。マツリたちの連絡の仕方が悪かったんだろ、せめてお前で八割持てよ」
「親御の教育に問題ありと見受ける。精々『庭師』殿と折半であるな」
国家の要人たちがゴタつく様を、シャラとシュロは胸がすくような思いで見守る。
爽やかな顔の二人の袖を、ナヴェットがチョイチョイと引っ張った。
「良かったですね!」
「はい」
「ええ本当に」
ナヴェットがどの件について言っているのか測りかねたが、ともあれ二人は最高の笑顔で返事をした。




