帰る途:01 復号
「長官への報告は、決して公衆回線を使うなと厳命されておりまして。専用回線の通信機を借りるために、また遺跡の調査地に赴く必要があります」
道端で昼食をとりながら、かなり憂鬱そうな表情でシャラがこの後の行動について説明した。
「指定される次のポイントは、十中八九は首都の方向でしょう。となるとその後は我々が歩いているこの南側の山道ではなく、北東ルートから麓の街道の街に向かうことになります」
地図を広げて道を指し示す。
「調査地への距離で言えばこちらの街の方がよほど近いので、今から歩いてもなんとか日暮れにはたどり着けると思います」
残りの物資を考えると、今日中にたどり着く必要がある。調査隊に物資の「協力」を頼めば少し余裕ができるかもしれないが、それは可能な限りしたくない。
「しかしそれは歩き続ければ、の話です。お昼寝タイムを入れるのが難しい。そこで」
シャラは自分の荷物から毛布と縄を取り出した。
「本日は、ナヴェット様おんぶ作戦で参ります」
「なんですかそれ!!」
案の定、ナヴェットは首をブンブンと横に振りながら叫んだ。
「ナヴェット様とシャラの荷物は私が持ち、適宜交代します」
「あまりにもいたたまれません!」
「頼りなく見えるかもしれませんが、最低限は鍛えておりますのでご安心を」
「信頼の話ではなく! 私が見た目通りの年齢だったとしても、まあまあ恥ずかしいと思います!」
ナヴェットが拒否するのは想像どおりではある。
だからこの作戦は今まで取ってこなかった。もちろん普通に体力消耗が激しいものだから、ということもある。
「考えたんです。意識の無い子どもを背負っていたら、『ごちゃごちゃ問答している場合ではなさそうだ』と思わせられてスムーズかもな、と」
「いや普通に心配されて親切にされる恐れがあるのでは」
「そこはシャラのあの露悪にふりきった話術に任せれば大丈夫です」
「だからそういうときばかり信頼の言葉を吐くのやめてくれる?」
ナヴェットはその後もごね続けたが、結局は歩いているうちにいつもどおり意識が飛びかけ、うつらうつらしている間にテキパキとシャラの背に固定されてしまった。
「……恨めしい……」
泣き言を言いながら寝入ったナヴェットを背負って二人は遺跡の調査地を目指した。
揺れてる。暖かい。どうしてだっけ。
目覚めたナヴェットの目に入ったのは、滝のような汗を流しているシャラの真剣な横顔だった。
「おっっっ! 起きました、私起きましたっっ!」
「わっ危な……!」
思わずのけ反ってしまい、バランスを崩させてしまった。シュロが慌てて後ろから支えて転倒は免れたが、そのままシャラは腰を下ろした。
「危ないじゃありませんか! 頭を打ったらどうするんです」
「ご……ごめんなさい……」
様々な種類の羞恥にまとめて襲われ、ナヴェットは顔を隠すことしかできない。
「思ったより今日は短かったですね、そろそろ交代しようと話していた所なのですが」
シャラに水筒を渡しながら、シュロが固定していた縄と毛布をほどいてくれる。
「あっつ~ 健やかに寝ている子どもの体温は高いですね」
雨にでも降られたのかと思う程汗まみれになったシャラが、水をがぶ飲みしながら笑う。
「あの……私がこんな不便な身体なばかりに大変なご苦労を……」
「謝らないでください、ナヴェット様」
「きっとそうして気に病まれるだろうと思っておりましたので、今まで私たちからも提案しなかったのです。今日はそれだけ緊急事態だったということで、非礼をお許しください」
気を遣われるとますます泣きたい気持ちになるが、ナヴェットはぐっとこらえた。
「わ、分かりました……この件についてこれ以上考えるのをやめます…… もう調査地を過ぎて山を下っているところですか?」
「はい、返信は暗号化されておりますので、とにかく受信だけしてさっさと去りました」
言いながらシュロが携帯端末を取り出す。
「ちょうど良いですね。シャラの休憩がてら、中身を確認しましょう」
受信したと言う指示書を開くと、中身はただのノイズで埋め尽くされていた。
「今回、復号には物理的な鍵が必要な仕様にされています」
シュロは端末に読取用のアタッチメントを接続した。
「その鍵はナヴェット様がお持ちだと聞いております。里長殿からの返信書をお貸しいただけますか?」
それは出会った際にナヴェットが二人に見せたものだ。
「この封緘に『種』が埋められているとのことで」
軽く封書を読取部に当てると、ホワンと軽い音と共に読取部が発光した。
「通りましたね。復号が始まりました」
返された封書をナヴェットが丁重に仕舞い直している間、シャラとシュロが二人で端末を凝視している。
「完了です」
「次の指定地は……」
読める文字になったらしい指示書を数秒程眺めた後。
「「はンあ゙あ゙ぁあ゙あ゙あ゙ぁぁあ??」」
ナヴェットが今まで聞いたことのないガラの悪い声で、二人が叫んだ。




