黙する祠:06 反響
「シュロの言う空洞が祭壇でしょうか」
シャラが本題に戻る。
「断定はできませんが……この地は元々、地層に間隙が生まれやすい地質でしょうし……」
ナヴェットは脳内で様々な可能性を検討しながらしゃべった。
「しかし、この頂点だけが飛び出たような樹木は明らかに異質です。土の様子からすると、最近になって異常な急成長をした可能性を感じます」
そう考えると、見えているものと辻褄が合う。
「お二人が初見で違和感を感じた時点で、重要要素であることは間違いありません。まずはこの根元を探すことを優先事項にしましょう」
ナヴェットの宣言に、シャラとシュロはうなずきつつも難しい顔をする。
「そもそも今調査している遺跡も地中から現れたのですからね。本物の祭壇が地上にないのはむしろ自然と言えますが……」
「今は出入口が地表に全く露出していない可能性もあるわけですよね」
そう、問題はどうやってその場所にたどり着くか、だ。
あてどなく探し物をするには、山はあまりに広大だ。
今やったような探査を地道に繰り返していけばいつかは入口も見つかるだろうが、果たして何日かかるか。シュロの超高感度解析により一般的な活揺士の何倍も短縮できてはいるのだが、それでもだ。
「……先ほど、偉そうに『他人と共有できる形が大事』と申したばかりではございますが」
シャラが、なぜかナヴェットと目を合わせないまま語る。
「他人に説明できない方法……つまり譜を組まないでやっていいなら……一気に横穴まで探査できると思います」
「それは、お二人の立場をいずれ危うくするのではありませんか」
先に進みたい気持ちは強くあるが、それはナヴェットの望むところではない。
「はい……なので」
顔を上げてシャラを見つめるシャラはの顔には、妙に後ろ暗そうな笑顔が浮かんでいた。
「ナヴェット様が後で死ぬ気で『後付け』してくださるなら、と思いまして」
ナヴェットは一瞬の間の後に、シャラの言うことを理解した。
その顔に、シャラに負けない狡猾そうな薄笑いが浮かぶ。
「任せてください。シャラのように喋りながらリアルタイムに取り繕うことは苦手ですが、時間をかけて考えて良いなら……シャラの上を行く小賢しさをご覧に入れますよ」
「……こっわ」
交わされる二つの笑みを眺めるシュロの表情は、言葉とは裏腹に楽しんでいることがありありと表れていた。
「原理自体は先ほどと同じなんですけれど」
発信側と受信側を交代して、二人が探査の準備をする。
「今度はシュロが直接、探査用の波を打ち込みます」
シュロの手には、調揺の際に用いる笏杖が握られていた。
「取り繕う必要がないなら、先ほどの軽く数十倍は一気に探れます」
「差がありすぎませんか」
「出力の大きさの差だけでなく、『遠くまで伝わりやすい波形』をもっと精緻に作れますので」
規格外すぎる。
「受信側には、流体水晶の剥片を補助に使います」
こちらもシャラが調揺の際によく用いる道具だ。
シャラは一定間隔で少しずつ、網を構築するように光る花弁を宙に置いた。サワサワとした音が辺りに満ちる。
「ではシュロ、よろしく。間を置いて何度かお願い」
地面に手を当てながらシャラが合図した。
シュロはうなずくとスッと息を吸い背筋を伸ばして、笏杖を振り上げる。
ッコオオオオォォォォン……
軽い動作で打ち下ろされたように見えるのに、その笏杖からは硬く澄んだ波紋が、山を覆いつくす勢いで生み出された。
シャラは全身で集中して、その反響を感じ取る。さすがに一度でつかみ取るには範囲が広すぎる。何度か繰り返される波紋で少しずつ意識する位置を変え、つなぎ合わせていく。
シュロの言う通り、この下には恐らく巨木様の構造物を擁する空間がある。
いや本当に空洞か? 反響の仕方がおかしい。何かが詰まっているかもしれない。
しかしともあれその底は液体が満ちていて、いくつかの筋に分かれて四方に伸びている。その中でも太くて辿りやすそうな道は……
その感触を忘れないように、シャラは目を開き視覚として見える地形と急いで見比べ、さらに手元の地図と見比べる。
「筋が良さそうなのはこの線とこの線と……」
いくつかの候補を地図に書き入れた。三人で地図を覗き込む。
「北東の地点は、調査隊のキャンプが近いので積極的に行きたくはありませんね」
「西側は一応書き込みましたけど、急峻な斜面で厳しいかもしれません」
「となると第一候補は南側ですね」
そのポイントの座標に、若干の見覚えがあった。
「これ、一昨日泊まった山小屋の近くじゃありませんか?」
「かなり近いですね」
「それなら今夜は泊まる場所に悩まず調査に集中できそうですね」
ナヴェットが嬉しそうに微笑む。
「仰る通りですけど……無理せず程々になさってくださいね」
シャラのブレーキに、ナヴェットはまたバツの悪そうな顔をした。




