黙する祠:05 探査
「この辺りで一番目立つものと言ったら、あの茂みですかね」
見晴らしの良い高台を見つけ、周囲を見回してからシュロが指さした。
「あの灌木の……ですか?」
ナヴェットには、少なくとも遠目には特に目立つとは思えなかった。
他に高い木やら大きな岩やら泉やら、もう少し「目印っぽいもの」がいくつもある中で、ただの茂みは意識にも上っていなかった。しかし、シャラもシュロに同意らしい。
「何かあそこだけ、何というのでしょう、流れが大げさなんですよね」
ナヴェットは測定レンズで見てもあまりピンと来なかったが、二人がそう言うのなら確認する価値は大いにある。
「では近くで確認してみましょう」
近くで見てみると、確かに少し妙な光景ではあった。
「なるほど、あまり見たことのない樹形ですね」
フチのギザギザした大きめの柔らかい葉が、密度高く茂っている。
この辺りでよく見る灌木と毛色が違うのは確実だが、ナヴェットは(他の分野に比べると)そこまで植物の体系に詳しいわけではなく、どう解釈すべきか悩んだ。
「周りの地面の様子も少し変です。最近になって掘り返されたかのような」
シャラの言うとおりだ。
周辺に比べて、この一帯だけが明らかに土が柔らかい上、木の葉に土が残っていたり石が乱雑に落ちていたりする。まるで誰かが土を掘ってこの茂みを植え、雑に土をかけて埋めたかのようだ。
「先ほど仰っていた不自然な流れというのは、近くで見るといかがですか?」
ナヴェットの問いに、二人は眉をひそめてじっと地面を見つめている。
「これは……もしかすると」
「もっと下?が、あるんじゃないですかね」
「下?ですか?」
ナヴェットはよく意味が分からなかったが、シャラとシュロも明確に分かっているわけではなさそうだった。
とりあえず一カ所を三人で掘り返してみる。先ほどの観察どおりやはり土は柔らかく、素手でもすぐに掘り進むことができた。
「これは確かに、普通ではないかもしれません」
掘り進むと改めて奇妙さが浮き彫りになる。
いつまで経っても根に当たらない。それどころか地中で茎が次々と合流していき、掘れば掘るほど太くなっていく。
「低木じゃなくて……もっと大きな木が、埋まっている……?」
怪しい。確かにここは、集中して調査する価値がありそうだ。
「しかしお二人がいなかったら、こんな場所絶対に怪しみませんよ」
仮に調査隊が周辺調査をしていたとしても、わざわざこの位置を選んで調査したりはしなかっただろう。遠目にはあまりにもありふれた「背景」だった。
「この下をもう少し知りたいですね」
「ではちょっと反響を見てみましょうか」
シャラが荷物から流体水晶と翅の束を取り出した。
「翅を使うのですか? 無くてもシャラならできるのでは?」
乗合馬車で翅を用意していたのは周囲の目があるからだと思っていたが、ここならその心配もないだろうに。
「ええ、むしろ使わない方が楽なんですけど……高価な資材も減りませんし」
シャラが軽く肩をすくめる。
「しかし使い慣れておかないといざという時にボロが出ますので、必要な場合はできるだけ翅を使うようにしております」
「下手に直接やると、消耗品の減り方や状況報告の辻褄が合わなくなったりもしますし」
「なるほど、社会の中で生きるというのは大変なことですね」
「「本当にそれなんです」」
何気なく漏らした相槌に対し予想外に力を込めて同意され、ナヴェットは少し気圧された。
「じゃあこちらで発信側をやるから、シュロは反響よく見てて」
薄い円盤状にした翅入り流体水晶2枚をそれぞれ紐で吊るし、地面に当てながらシャラが指示した。シュロはうなずいて目を薄く閉じる。
「受信は結局生身でやるのですか?」
「報告が必要になった場合用にちゃんと端末で記録も残します。画面ご覧になりますか?」
ナヴェットは喜んで端末を受け取った。シャラが吊している水晶の片方から、短距離無線で情報が届くらしい。
「ではゆっくり歩きます」
流体水晶を引きずりながらシャラがゆっくりと周辺を歩き回り、シュロがその後をついて回る。端末に次第に波のようなものが描写されていくのを、ナヴェットは興味深く見つめていた。
「だいたいこんなところでしょうか」
灌木の周囲を一通り練り歩いたあと、シャラはナヴェットの手元を覗き込み記録を確認した。
「これすごいですね、解析と描画の譜はシャラたちが組んだのですか?」
感嘆を上げるナヴェットに、二人は「いやまさか」と首を振る。
「本庁にはこういうのが得意な人たちがいますから。ここまで複雑なのはそういう人の凹版を貸してもらって写します」
「そこは組織に属するメリットですね。業者から買ったら高いです」
実際には昨日、調査隊のデスクで見つけた版を使って勝手に刷ったのだが、同組織の職員同士なのだから問題はない。
「しかし……深い層の把握は物足りないんですよね」
言いながらシャラは、問うように視線をシュロに向ける。
「地表に近い辺りはナヴェット様の予測どおりです。樹木の様にうねって枝分かれしている構造が、次第に収束しながらずっと続いています」
シュロは一切端末の画面を見ないまま、淀みなく語っていく。
「たぶん想像よりだいぶ大きいです。そして……かなり深い場所に空洞があります。ここから掘って届く深さではなさそうです」
「苦心して組まれた譜よりも精緻に把握できるのですね……」
ナヴェットはまた密かに、二人の同僚たちへ同情の念を抱いた。
「そうは言っても、二人で出来ることなんてたかが知れていますから。組織で動くにはこの解析画像のように、他の人と共有できる形にする必要があります。私たち『だけ』が分かっている状況では、他人を動かせません」
「だからこのような譜の存在はありがたいのです」
自分が育った共同体とは違う力学で社会が構成されていることを、ナヴェットは何となく理解した。




