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揺らぐ世界の渡り方 ~冒険?いえ出張です。「見えすぎる」公務員兄妹は世界の真実に目をつむる~  作者: 春科シオン
第三章 案内人は山へ潜り未知を垣間見る

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黙する祠:02 描画

「まずは時系列で整理お願いできますか」

デスクスペースで改めて資料を広げた上で、ナヴェットが二人にリクエストした。


「一連の異常現象の始まりだと言われているのは、ここから見て北西にある渓谷一帯の空に、真っ赤なオーロラが出現した、というレポートです」

シャラが解説し、地図の該当地点にシュロが印をつける。


「遥か北の土地ならともかく、こんな場所にオーロラが現れるなんて前代未聞です。それがだいたい、二ヶ月と少し前でした」

「オーロラそのものが何かの害を生むことはありませんが、あまりに異例ということで周辺の祭壇を点検したところ、複数の祭壇で動作異常が見られました」


「複数個所で同時にですか?」

ナヴェットが質問を挟む。

「はい。ユラの流れの問題だけではなく、一部は物理的な破損も生じていました」

「我々が再起動を補助したあの祭壇と似た状況と思われます」

つまり現代の技術でも修繕可能ではある、という程度か。


「原因調査をしている間に、今度は少し離れた地点の海岸で、遠洋にいるはずのクジラが集団で現れ、一部が浜辺に打ち上げられました」

「可哀そうなことです…… 海に戻してやる術もなく、かなりの数がそのまま死骸になったと聞いています」

シュロが沈んだ顔で地図に印を追加した。


「そこの周辺の祭壇でも、やはり破損が?」

「ご推察の通りです。ほぼ同じような破損具合だったと報告されています」

「なるほど……」

ナヴェットは地図を見つめながら考え込んでいる。いつもの天真爛漫さは鳴りを潜めた、研究者然とした表情だった。


「ユラの流れは影響し合いますから、一か所の不具合を放置すると乱れが広範囲化する恐れがあります。この段階で周辺一帯の祭壇の祭儀手順見直しが緊急で指示されました」

もちろんシャラとシュロも、駆り出されてこの付近に出張していた。


「しかし腕が立つ調揺士の数にも限りがありますので、なかなか追いつかずその後も異常報告は各地で続き……」

「その半ばで起きたのが、この山の崖崩れです」

シャラの説明の最後を引き取りながら、シュロは現在地に印をつける。


「発見時の報告では……」

「いえ、この祭壇について検討する前に、各地の異常についてもう少し知りたいです。発生個所を地図にプロットしていただいていいですか? まずは、祭壇の破損があった個所を」

「やってみましょう」

シャラとシュロは手分けして端末内に貯めていたレポートを確認し、地図に印を増やしていった。


一通り終わった段階で、ナヴェットが次のリクエストをする。

「では次は、祭壇の破損が『見られなかった』箇所のうち、山崩れから前後1週間以内の異常を。先ほどの破損個所とは色で区別がつくように」


同じく二人で手分けをしながら色分けして書き込んでいくうちに、一つの傾向が見え始めた。


「これは……」

出来上がった地図を見ると一目瞭然だった。

破損を伴う異常は一帯に満遍なく発生しているが、そうでないものの大半は、この山を中心とした円環状に集中している。


「感服いたしました。ナヴェット様はこういう分析に慣れておられるのですね」

シャラは素直に称賛した。


破損祭壇は修繕の必要性があるため当然集計・把握されてきたが、それ以外「のみ」を選んで、しかも特定期間のものだけを可視化することは、本庁職員も行わなかっただろう。


シャラ自身も、なまじ一か所ずつの異常が高解像度で見えてしまうせいか、この視点は持っていなかった。


「色々と見えない分、数値や座標で把握することばかりしてきたので……」

照れるナヴェットの表情は、一瞬だけ子どもの顔に戻った。が、すぐに顔を引き締めて続ける。


「恐らく異常は三段階だったのだと思います。オーロラやクジラの座礁を引き起こした大規模なユラ乱れが第一段階。他国の古い記録で似た現象を見たことがありますが、星の動き等による単発的なものである可能性が高いです」

「そんなことまでご存じなのですか」

シュロが改めてナヴェットの博識ぶりに感嘆する。


「この嵐自体はすぐに鎮まり、全体の流れを乱すようなものではなかったはずですが、突発的に高い負荷がかかり、各地の祭壇に破損が発生した。これが原因で生まれたのが第二段階の異常現象群」

ナヴェットは地図上の破損祭壇の箇所を指さす。


「これは地道に各地の祭壇の修繕と最適化を進めていくしかありませんが、逆に言えばそれで鎮まると予想します」

それはそれで労力がかかる話ではあるが、道筋が見えているだけ対処のしようがある。


「そして問題は、恐らく最初のユラ乱れに影響されたのかと思われますが、未知の祭壇が動きだした結果発生した第三段階です」

ナヴェットが地図をぐるりと指でなぞりながら語る。


「お二人のお話からすると、ここは他から断絶されたように固有のユラを生んでいるようです。これが周囲の元々の流路とぶつかり大きく流れを乱し、あちこちで異常現象を生んでいると思われます」


「なるほど、異なる原因のものを混同して取り扱ってしまっていたのか……」

「原因究明や対処検討が混迷するはずです」

納得した表情で二人が呟く。


「その後はシャラが言った通り、乱れが影響し合い徐々に広範囲化して行っている状況かと。とはいえ結局のところ、我々が対峙すべきはこの第三段階の問題に対してであることは、最初から変わっていないわけですが……」

ナヴェットはじっと地図を見つめて考え込む。


「これちょっと違和感ありますよね」

横から地図を見ていたシュロが、現在地の印を指さす。それに対して、ナヴェットがうなずいた。

「ですよね? 円環の中心地、ここから少しズレてますよね?」

「それってつまり……」

シャラが思わず周囲を見回す。

「ここは祭壇ではない、ということでしょうか?」

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