交わる糸:04 蒸留酒
「ちょっと。ナヴェット以上にシュロが落ち込んでどうすんの」
ナヴェットを寝かせた後、隣にとった自分たちの部屋でシャラとシュロは向かい合っていた。
「落ち込んでない」
そういうシュロの手には、いつも以上に強めの蒸留酒がストレートで握られている。
と言うかいつの間に買ったのか陶瓶で何本か持ち込んでいやがるし、既に空いている瓶もある。
今日は久々に遠隔通信で入手できた情報もあるので、その精査と検討をするためシュロの酒場周りは自粛してもらっている。しかしこの調子では、酒場に行っていてもろくな情報は得てこなかっただろう。
「本人が自分で考えるって言っているんだから、待つしかないじゃない」
「えあの流れでなんで? コレどうすればいい? 満月まで雨降らせ続ければいい?」
「やめなさい、そういう話じゃないでしょどう見ても」
珍しく理性を失っている妹に、本当は同じく動揺していたシャラはかえって冷静になっていく。
二人には人が発露する感情は視えるが、詳細な思考が分かるわけではない。原因、ましてや解決策を見いだせるようなものではないのだ。
「なんとなく、分かる気もするけど……合っているかは分からないし、余計な事言うのもね。ごめんやっぱウチも一杯もらうわ」
普段は自制しているが、シャラも飲めないわけでは全然ないのだ。
いつもドリップ等を飲むのに使っているマグへ、なみなみと瓶から注いだ。
「ウチらはウチらの仕事しよ。途中で任せちゃったけど、本庁の様子はどうだった?」
シュロは少しの間黙ってから、手の中のマグを一気に飲み干し、同じ分量を再び継ぎ足しながら端末の映像を投影してみせた。
「ま、何も進んでないわ。みんな頑張ってるだろうとは思うけど」
「そもそも言語が未知のものっぽいもんねぇ……」
己の権限で閲覧可能な共有レポートをざっと眺めるが、件の新祭壇について目新しい成果はなさそうに見えた。
「で、報告されてる周辺の異常がこれか」
「ウチらが見てきた範囲考えると、まだ報告されていないものも多そうだな」
本日のマダムたちの話から推測するに、異常と呼ぶかギリギリのラインの異変が起きていただろう。
少なくとも、日照りと不漁。最初の漁村でユラを散らせた結果、解消したと見て恐らく正しい。
「今日は会えなかったけど、一応明日は聖堂の常駐さんにも話しとこう。レポート上げてもらった方がいいかもだしね」
「で。ここまでが職場関連の入手情報なわけだが」
今までも充分に重かったシュロの話ぶりが一層重くなり、シャラにイヤな予感を抱かせる。
「職場関連じゃない情報と言うと? 聞きたくないなあ?」
「親父からめっちゃメッセージ入ってるぞ、どこで何してるんだって。叔父貴からも。何日も前から」
「ウソでしょ!? なんで今!?」
予感をさらに上回る返答に、シャラの声もつい大きくなる。
「分からん。でも何か、本庁から変な連絡が来たんだが、的なことを……」
「本庁から親父のとこに? 意味が分か……」
ふと思い浮かぶことがあり、シャラは途中で言葉を切った。
「え今のコレさあ、周りからどういう状況だと思われてるの? まさか無断欠勤?」
本来なら担うはずの日常業務等を二人は今すべてキャンセルしている。誰がそれを穴埋めしているのだろう、と薄々疑問に思っていた。
「実は職場の内部会話ログの断片から想像する限り…… 重病もしくは逃避行……ならまだマシで、もしかすると既に……だと思われている、節がある」
「何それ、上手くやっとくって話だったよね!?」
まさか長官がまともなフォローもしておらず、親族に連絡が届いた可能性すら今ほのめかされたわけだ。
「勘弁してよーこんな真面目にお仕事してるのにっ」
「これ通常業務に復帰できるんか、無事に案件が完了したとしても」
「免職されて実家に戻るのは絶対イヤだぁぁぁ」
一杯もらう、だけだったはずのシャラも二杯目に手が伸びる。
「とりあえず何も返事しないと突撃して来かねないし、何か親父への適当な返事考えてくれよ」
「適当な返事って何だよ~ 守秘義務と両立する返事って何だよ~」
最近はナヴェットの手前、しっかりした大人を頑張ってきていたのだが今夜はタガが外れた。久々に二人は、グダグダと夜を飲み明かしたのだった。
***
「おはようございます、ナヴェット様」
翌朝、化粧道具を携えて部屋に入ってきた二人を見て、「いつも以上にむくんだ顔の化粧が上手いな」とナヴェットは思った。
「昨夜はよく眠れましたか?」
違う、化粧の問題ではない。声に覇気がない。
「あ、はいおかげさまで……」
二人の普段と違う様子に、自分が心配させたせいかとナヴェットはさらに縮こまる。それに気づいたシャラとシュロがますます気を遣う……という悪循環がこの場所に生まれていた。




