潜入
確信がない予感は頭の隅におき、まずは急いで向かう。
しかし、やはり……アリア殿にはきついようじゃ。
依頼を終えたと思ったら休むことなく移動なので無理もない。
「はぁ……はぁ……」
「休むかのう?」
「い、いえ、ことは一刻を争います。なんなら、私を置いて行っても構いません」
「それはそれで危険度が増すのう。トロールの居場所がわからない以上、二次被害になったら目も当てられん」
確かにトロールを倒すだけなら、儂とオルトスだけで行っても良いかも知れん。
しかし、事は単純ではなさそうじゃ。
儂は自分を最強などと思っていないので、アリア殿の力も必要だと思っている。
「ですが、このままでは足手纏いに……」
「ふむ……アリア殿が嫌でなければ、背負っても良いか?」
「えっ? い、いや、それは流石に……嫌ではないですが」
「では決まりじゃな……失礼する」
時間が惜しいので、儂はさっと近づきアリア殿を抱きかかえる。
すると、羽のように軽い。
同時に、女性を抱きかかえるのはユリア様以来だと思った。
「ひぁ!?」
「すまんな、なるべく触れないようにしたいが……」
「お、お姫様抱っこ? えっ? うそっ?」
何やら顔を両手で隠してブツブツ言っておる。
やはり、ジジイに抱き抱えられるのは嫌かのう。
しかし、今は我慢してもらわねば。
「すぐに着くので我慢してくれい。オルトスよ、全力で走って良い」
「ウォン?(良いの?)」
「ああ、隠す必要はない。先に行って、トロールの匂いを探してくれい」
「ウォン!(わかったのだ!)」
すると、オルトスの走るスピードがグングン上がっていく。
そして、あっという間に視界から消え去った。
「やれやれ、どうやら相当ストレスを溜めていたようじゃな」
「……あの速さは? 私の知るシルバーウルフじゃない? あれでは、伝説のフェンリルのようだ」
「ほほっ、たまたま足が速いだけじゃよ。では、我々も急ぐとしよう」
足に力を入れ、全速力で駆け出す。
老いても走れるように鍛えた走り方、そして今の若い身体。
それらが合わさり、自分でも驚くようなスピードが出た。
「は、速い!?」
「うむ、思ったより出るか。オルトスよ! スピード上げないと追いついてしまうぞ!」
「ウォン!(負けないのだ〜!)」
そうして儂らは、草原を駆け抜ける。
そして走る事、15分程度で指定の場所付近に到着した。
流石にオルトスの方が速く、視界には既にいない。
まずはアリア殿を下ろし、森を見渡す。
「あ、ありがとうございました」
「気にせんで良い。こちらこそ、嫁入り前の娘を抱きかかえてすまんかった」
「い、いえ……えっと、オルトス君は?」
「感覚的はそんなに離れてないはず……こっちじゃ」
魔力のパスを追い、森に入る。
そして数分で、オルトスを発見した。
「ウォン!(勝ったのだ!)」
「うむ、流石は我が相棒じゃな。して、トロールは?」
「ウォン!(見つけたのだ!)」
「良くやった。では、案内してくれい」
休む間も無く、そのまま移動を開始する。
抱き抱えたことによりアリア殿も回復し、森を進んでいく。
その際に儂が先に立ち、邪魔な木や草などを除去していった。
「何から何まですみません……」
「今は一緒にパーティーを組む者、そんなに謝らんで良い。これも、適材適所というやつじゃよ」
「そうなのですね……パーティーを組んだ経験がないもので」
「それも貴族だからかのう?」
「はい、すぐにバレてしまいました。それ以降、あのように避けられるように。もしくは、変な輩が近づいたり……やはり、冒険者になる貴族の女性は珍しいでしょうか?」
「……ふむ、確かに珍しくはある」
しかし、儂の勘がそれだけじゃないと告げておる。
確かに見た目や所作が美しいので、近寄り難くはあるとは思うが。
……さて、後で一仕事するか。
「ウォン……(近いのだ……)」
「では、ここからはより慎重に。アリア殿、巣が近いようだ」
「わ、わかりました」
そこからは草木を分けることなく、ただ静かに進んでいく。
そして数分後……大きな洞窟を発見した。
その前には、ゴブリン達がたむろしてる。
「ウォン(あそこで臭いが切れてるのだ)」
「そうなると、あそこが巣というわけか……確信じゃな」
「どういうことですか?」
「同じ妖魔と言えども、奴等は基本的には群れないのだ。ましてや、トロールとゴブリン達が手を組むなどあり得ない……おそらく、指揮官クラスがいるわい」
時間がないので、儂は手短に説明する。
妖魔の中には長生きすると特殊個体が生まれ、その個体は他の妖魔を従えると。
儂らが現役時代も、奴等には苦労した。
「そのような生態なのですね。では、どうしたら?」
「ボスを叩けば群は瓦解する。そして大きくなる前に叩くのが鉄則……捕まった女性のこともあるし、儂らでやろうかのう」
「……わかりました。指示はシグルド殿にお任せします」
「助かるわい」
敵の数がわからない以上、できるだけ消耗は避けたい。
つまりは、先手必勝というわけじゃ。
「オルトスは右、儂が左じゃ。アリア殿は、儂の後ろについて参れ」
「はい……!」
「ウォン(任せるのだ)」
二人が頷くのを確認し、木の陰から飛び出す。
すると、あくびをしていたゴブリン達が儂らに気づいた……が遅い。
既にオルトスと儂は肉薄していたので、一撃の元に仕留める。
「さて……気づかれておらんか?」
「ウォン(こっちに来る音や気配はないのだ)」
「よし、ではすぐに処理を行って突入する」
ゴブリンを草むらに放り投げたら、儂、アリア殿、オルトスの順番で洞窟に入る。
幸いにして朝も早く、所々から光が入ってくるので明かりの類はいらなそうじゃ。
それに戦うにしても、このタイミングは良い。
「……いませんね?」
「時間帯が良かったかも知れん。妖魔とは夜の生き物と言われ、朝方には動きが鈍るのじゃ」
「なるほど……私は知らないことばかりですね」
「なに、これから知っていけば良いのだ」
奥の方に行くと、流石にゴブリン達に出くわす。
「しっ……」
「ガルッ……!」
しかし、オルトスの方が気づくのが早いので声を出される前に仕留める。
「て、手際が良い……私の仕事はなさそうですね」
「何言うか。アリア殿は体力を温存して、この先にある戦いに参加してもらう。それに女性が捕まっているので、儂よりアリア殿の方が良いじゃろう」
「……確かにそうですね。すみません、気合い入れます」
そう言い、自分の頬を軽く叩く。
随分と自信を失ってしまっているようじゃが……儂の所為か。
慢心はいかんが、自信がないのも良くはない。
今後のためにも、自信をつけさせてやりたいものだ。
「まて、止まるんじゃ」
「ウォン……(いるのだ……)」
歩いてると、奥の方が次第に明るくなっていく。
おそらく、陽がよく入る広い場所に出るのだろう。
同時に、勘に触る声もしてきた。
「この先が巣の本体のようじゃな」
「い、いよいよですか……偵察とかは?」
「儂らがこれ以上近づいたら気づかれるか……オルトスよ、頼めるか?」
「ウォン(任せるのだ)」
オルトスが足音も気配もなく、前を歩いていく。
儂はオルトスの代わりに後ろを警戒しつつ、待つことにした。
すると、ものの数分でオルトスが戻ってくる。
「ウォン……!(主人……!)」
「何かあった? 要点をまとめて言うのじゃ」
「ウォン……(中は予想通り広い空間になっていて、そこにはゴブリン達がいて、トロールも一体いたのだ。そして、中央に一際目立つゴブリン……ゴブリンジェネラルがいたのだ)」
「やはり、上位種がいたか。これで、確定じゃのう。それで人質は?」
「ウォン(端の方に檻があって、そこに何人か閉じ込められているのだ)」
「よし、まだ生きている人がいるなら急がねば」
その後、素早く作戦を立てる。
準備ができた儂らは、奥の広場へと突入するのだった。




