義
やれやれ、ギリギリ間に合ったか。
また、ユーリス辺りには言われてしまうじゃろうか。
しかし、知ってしまったからには放っておけん。
……人の性というのは、そう簡単には変わらないようじゃな。
「さて、今はこっちに集中じゃな」
「ブヒッ!」
目の前には醜悪な豚の顔に、二本足で立つ下級妖魔であるオークがいる。
下級とは言っても、ゴブリンとは違い油断は禁物じゃ。
此奴らは連携を取るくらいには頭が良い。
「ふむ、三対一か……」
「ブホォォ!」
お楽しみを邪魔されたからか、オークの敵意が儂に向けられる。
まずは蹴っ飛ばして良かったわい。
これで、儂が倒されない限り女性は安全じゃな。
すると、すぐに斧を振りかざして突撃してくる。
「遅すぎる」
「ブビ!?」
振り下ろす前に前に出て首を切断し、その腹を蹴る。
それは後ろから迫っていたオークの動きを阻害した。
「ブヒッ!?」
「判断が遅い」
儂が蹴ったことによって体勢を崩したオークを一閃の元に斬り伏せた。
それにしても、頂いた剣の斬れ味は凄まじい。
蹴ったオークごと、二体のオークを両断してしまった。
すると、それを見ていた最後の一体が背を向けて走り出す。
「ブヒッぃぃ!」
「逃げ出すか……オークの特徴じゃな」
ゴブリンはそもそも逃げる考えが浮かばない。
トロールやオーガは傲慢な故に逃げ出さない。
しかしオークというものは妖魔の中で唯一逃げることを実行する。
中途半端な強さと頭脳を持っているからと言われていた。
「だが、逃すわけにはいかん」
「ブヒッ!?」
逃げたと言ってもオークの鈍足、若返った儂の速さなら一瞬で追いつく。
そのまま後ろから首を切断して確実に仕留める。
「これで片付いたか」
「あ、あの……」
振り返ると、そこには先ほどの女性が立っていた。
その腰まである銀髪は光り輝き、スタイルや容姿が整っている。
立ち姿もピシッとしていて、格好といいまるで騎士のような感じだ。
「すまん、勝手に助けてしまったが……お節介だったかのう?」
「い、いえ、助かりました……助けて頂き、感謝します」
「そうか。時に、一人かのう? 仲間がいるなら、儂で良ければ手を貸そう」
「……いえ、私一人です」
……何やら事情がありそうじゃな。
こんな若い女性が一人でいるのは珍しい。
そもそも、雰囲気からして何処かのご令嬢のように見える。
「では、ひとまずは安心か。それで、この後の予定は何かあったのだろうか?」
「実は冒険者ギルドの依頼を受けた帰りでして……普段であれば、オークなんかに負けないのに」
そう言い、下を向いて拳を握りしめる。
やはり、色々と訳ありか……しかし、お節介すぎるのも良くない。
ひとまず、儂の目的だけを叶えるとしよう。
「なるほど……ところで、帰りといったが街が近いのだろうか?」
「ここから歩いて一時間程度かと。あそこにある街道を北に行けば、私の住んでいる街があります」
「それは良いことを聞けたわい。では、儂はこれで」
「……えっ? ま、待ってください!」
立ち去ろうとした儂を女性が引き止めた。
そうなると話は別なので、立ち止まって振り返る。
「何か用じゃろうか?」
「そ、その……何もないのですか?」
「何とは?」
「えっ? い、いや……」
そう言い、オロオロし出す。
なるほど……そういうことかのう。
大人っぽい雰囲気と凛とした姿とは裏腹に、どうやら中々に純情らしい。
「もし対価を払うことを要求されると思っているなら、それは気にしなくて良い。儂は、己の義に従ったまで。勝手に助けたので、お主が気にすることはない」
「……な、なんという……物語に出てくる騎士のよう……」
「いやいや、しがない新人冒険者じゃよ。さて、用はそれだけかな?」
「いえ、ここで礼をしないのは私の義に反します。何より、大変失礼なことを言ってしまい申し訳ない」
義ときたか……ならば、受けないわけにいかん。
儂とて逆なら、なんとしても礼をするだろう。
「なに、気にするでない。それほどに綺麗であれば警戒するのが当然じゃ」
「へぁ? あ、ありがとうございます……」
「それなら、儂を街まで案内してはくれんか?」
「ええ、お安い御用です」
照れ顔から一転し、キリッとした顔つきになる。
育ちの良さと気が強そうなところといい、何となく若き頃のユリア様に似ているような気がするのう。
……だからと言って、別にどうというわけではない。




