表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
98/112

望む褒賞

授与式当日――


 


王城・大広間。


 


豪奢なシャンデリアが、

黄金の光を落としていた。


 


赤い絨毯。


 


並ぶ大貴族達。


 


王族。


 


騎士団。


 


そして。


 


今日の主役である男が、

広間の中央へ立っていた。


 


ジーク・バンディア。


 


銀髪。


 


灰色の瞳。


 


辺境公爵家嫡男。


 


王女救出の英雄。


 


静まり返った広間で。


 


国王が、

ゆっくり口を開く。


 


「此度の功績、

誠に見事であった」


 


重々しい声。


 


「貴殿は、

命を賭して第一王女を守り抜いた」


 


周囲の貴族達が、

静かに頷く。


 


認めざるを得ない。


 


この男がいなければ。


 


ミレイユは、

戻ってこなかった。


 


国王は、

さらに続けた。


 


「よって、

望む褒賞を与える」


 


広間が、

ざわつく。


 


公爵家とはいえ。


 


ここまでの功績は、

前代未聞だ。


 


領地。


 


金。


 


爵位。


 


あるいは――


 


誰もが、

息を呑む。


 


その時だった。


 


ジークが、

ゆっくり顔を上げる。


 


灰色の瞳が、

真っ直ぐ前を見る。


 


その先にいたのは。


 


第一王女。


 


ミレイユ・ヴェルディア。


 


ミレイユが、

僅かに目を見開く。


 


ジークは、

静かに口を開いた。


 


「私は」


 


低い声。


 


広間中へ響く。


 


「第一王女、

ミレイユ・ヴェルディア殿下と」


 


そこで一度、

言葉を切る。


 


そして。


 


「婚姻を結びたい」


 


空気が、

止まった。


 


次の瞬間――


 


ざわっ――!!


 


広間が、

一気に揺れる。


 


貴族達が、

信じられないものを見る目をした。


 


当然だった。


 


ミレイユには、

既に婚約者がいる。


 


宰相家嫡男。


 


ルシアン・エヴァルド。


 


王国屈指の名門。


 


その婚約へ。


 


真正面から、

辺境公爵が踏み込んだのだ。


 


ミレイユの瞳が、

大きく見開かれる。


 


「……え」


 


珍しく。


 


本当に珍しく。


 


ミレイユが、

完全に固まっていた。


 


耳まで、

真っ赤になっていく。


 


ジークは、

そんな彼女を見て。


 


ほんの少しだけ、

口元を緩めた。


 


まるで。


 


その反応を、

予想していたみたいに。


 


だが。


 


次の瞬間。


 


国王の低い声が、

広間へ落ちる。


 


「……それは認められん」


 


重たい声だった。


 


「既に婚約は成立している」


 


「王家の事情もある」


 


「故に、

その願いは却下する」


 


静寂。


 


だが。


 


ジークは、

動じなかった。


 


まるで。


 


最初から、

わかっていたみたいに。


 


そして。


 


小さく笑った。


 


「えぇ」


 


灰色の瞳が、

静かに細められる。


 


「承知しております」


 


ミレイユが、

はっと顔を上げる。


 


ジークは、

続けた。


 


「ですので」


 


「もう一つの願いを」


 


空気が、

再び張り詰める。


 


ジークは、

ゆっくり口を開いた。


 


「第二王子、

エリアス・ヴェルディア殿下を」


 


「我がバンディア領で、

十年お預かりしたい」


 


その瞬間。


 


広間が、

騒然となった。


 


「なっ――!?」


 


「第二王子を!?」


 


「辺境へ!?」


 


貴族達が、

一斉にざわめく。


 


王妃が、

息を呑む。


 


ミレイユも、

驚いたようにエリアスを見る。


 


その時だった。


 


王座近くへ控えていた、

エリアスが歩き出す。


 


静かに。


 


迷いなく。


 


そして。


 


ジークの隣へ立った。


 


その姿に。


 


広間の空気が、

変わる。


 


エリアスは、

ゆっくり顔を上げた。


 


蒼い瞳が、

真っ直ぐ国王を見る。


 


「これは」


 


静かな声。


 


けれど。


 


以前の、

幼い王子の声ではなかった。


 


「私が、

ジーク様へお願いしたことです」


 


ざわり――


 


空気が揺れる。


 


エリアスは、

続けた。


 


「僕は、

何も知りませんでした」


 


「民の暮らしも」


 


「飢えも」


 


「学べない苦しみも」


 


拳を、

ぎゅっと握る。


 


「王城の中で、

知った気になっていただけです」


 


蒼い瞳が、

真っ直ぐ前を向く。


 


「ですが」


 


「王位継承権を持つ身として」


 


「民を知らずに、

王にはなれません」


 


広間が、

静まり返る。


 


エリアスは、

震えていた。


 


怖くないわけがない。


 


けれど。


 


逃げなかった。


 


「だから僕は」


 


「辺境へ行きます」


 


「見て」


 


「学んで」


 


「知りたいのです」


 


「この国を」


 


静寂。


 


その瞬間。


 


国王の瞳が、

僅かに揺れた。


 


脳裏へ浮かぶ。


 


幼い日の、

第一王女。


 


真っ直ぐで。


 


愚かなほど優しく。


 


国へ噛み付いていた、

金色の瞳。


 


――懐かしい。


 


国王は、

静かにエリアスを見る。


 


そして。


 


その視線は、

自然とミレイユへ向いていた。


 


ミレイユは、

何も言わない。


 


ただ。


 


静かに弟を見ていた。


 


国王は、

ゆっくり目を閉じる。


 


長い沈黙。


 


やがて。


 


低い声が、

広間へ響いた。


 


「……よかろう」


 


その瞬間。


 


王妃が、

はっと顔を上げる。


 


「ですが――!」


 


言いかけて。


 


止まった。


 


エリアスが。


 


真っ直ぐ前を見ていたから。


 


もう。


 


守られるだけの、

幼い子供ではなかった。


 


王族として。


 


この国を背負おうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ