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報告書の秘密

翌朝。


 


近衛騎士専用控室。


 

 


静かな部屋。


 


その中で。


 


ジークは、

机へ置かれた書類を閉じる。


 


昨夜は遅かった。


 


ようやく少し、

休めると思った――その瞬間。


 


――バンッ!!


 


勢いよく、

扉が開く。


 


「ジーク様!!」


 


聞き慣れた声だった。


 


ジークの眉が、

ぴくりと動く。


 


「……ノックをしてください」


 


低い声。


 


完全に呆れている。


 


だが。


 


ミレイユは、

全く聞いていなかった。


 


「わたくし、

忘れていたのです」


 


「何をですか」


 


「弟がいました」


 


「はい?」


 


意味がわからない。


 


その時だった。


 


ミレイユの後ろから、

一人の少年が姿を現す。


 


金色の髪。


 


澄んだ蒼い瞳。


 


まだ幼さの残る顔立ち。


 


けれど。


 


そこに宿る気品は、

間違いなく王族のものだった。


 


エリアス・ヴェルディア。


 


第二王子。


 


エリアスは、

部屋へ入った瞬間。


 


ジークを見て、

動きを止めた。


 


銀髪。


 


灰色の瞳。


 


辺境騎士団の外套。


 


何度も、

頭の中で想像していた姿。


 


蒼い瞳が、

ゆっくり見開かれていく。


 


「……本当に、

いたんだ」


 


掠れた声だった。


 


ジークが、

静かに目を向ける。


 


エリアスは、

小さく息を呑む。


 


父――国王から。


 


昔から、

何度も聞かされていた。


 


辺境へ送られた、

第一王女の話を。


 


国へ噛み付き。


 


食糧制度を批判し。


 


王へ逆らった問題児。


 


けれど。


 


同時に国王は、

時々妙な顔をしていた。


 


「冬の死者をゼロにしたらしい」


 


「今年も飢餓報告がないそうだ」


 


「辺境の税収が上がった」


 


まるで。


 


認めたくないのに、

認めざるを得ないみたいに。


 


エリアスは、

ずっと気になっていた。


 


そして。


 


ミレイユが王都へ帰還してから。


 


完全に目の当たりにする。


 


王都改革。


 

 


流通改善。


 


食糧管理。


 


誰より早く動き。


 


誰より働き。


 


誰より人を救おうとする姉。


 


エリアスは、

具体的に知りたくなった。


 


辺境で。


 


姉は、

どう生きていたのか。


 


何を見て。


 


誰と戦ってきたのか。


 


聞いていた。



でも、



もっと知りたい。




だから。


 


勝手に、

辺境時代の報告書を読み漁った。


 


王城保管庫。


 


山のように積まれた記録。


 


そして。


 


姉が王都へ送っていた、

大量の手紙。


 


そこで。


 


何度も出てきた名前がある。


 


『ジーク様が』


 


『ジーク様のおかげで』


 


『また怪我をされました』


 


『本当に困った方です』


 


『ですが、

辺境に必要な人です』


 


最初は、

気になっただけだった。


 


けれど。


 


読み進めるほど、

わかってしまう。


 


どの記録にも。


 


どの手紙にも。


 


必ず。


 


その人がいた。


 


辺境公爵家嫡男。


 


辺境騎士団最強。


 


一人で六十もの賊を制圧した男。


 


なのに。


 



泥だらけになって、

姉と一緒に畑を耕し。


 


崩れた水路を掘り。


 


雪山で食糧を運び。


 


命懸けで、

辺境を支え続けた人。


 


エリアスは、

気付けば拳を握っていた。


 


そして。


 


深く頭を下げる。


 


「……初めまして」


 


声が、

少し震えている。


 


「僕は、

エリアス・ヴェルディアです」


 


顔を上げる。


 


蒼い瞳が、

真っ直ぐジークを見る。


 


「ずっと、

お会いしたかったです」


 


静かな部屋。


 


ミレイユが、

ぱちぱちと瞬きをした。


 


エリアスは、

続ける。


 


「報告書を、

読みました」


 


「お姉様が、

辺境で何をしてきたのか」


 


「その隣で、

誰が支えていたのか」


 


小さく息を吸う。


 


「どの記録にも、

貴方がいました」


 


「お姉様が、

どれだけ無茶をしても」


 


「その全部を、

支えていた」


 


エリアスの瞳が、

静かに揺れる。


 


「だから僕は」


 


「お姉様と、

ジーク様を尊敬しています」


 


沈黙。


 


ミレイユが、

ほんの少し照れたみたいに笑う。


 


だが。


 


エリアスは、

そこで小さく首を傾げた。


 


「でも」


 


蒼い瞳が、

ミレイユを見る。


 


「お姉様の手紙って」


 


嫌な予感がした。


 


「途中から、

ほとんどジーク様の話ですよね」


 


空気が止まる。


 


ジークが、

静かに目を閉じた。


 


ミレイユの顔が、

一気に赤くなる。


 


「エリアス」


 


「“また勝手に怪我をしました”とか」


 


「エリアス」


 


「“雪山へ単独で行ったので怒りました”とか」


 


「エリアス」


 


「“本当に困った方です”って」


 


「エリアス!!!!」


 


真っ赤だった。


 


ミレイユが、

本気で羞恥している。


 


エリアスは、

きょとんとする。


 


「え?

駄目だった?」


 


「駄目です!!!!」


 


即答だった。


 


その横で。


 


ジークは、

静かに額を押さえていた。

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