夕暮れの中庭
夕暮れ。
王城の中庭には、
柔らかな風が吹いていた。
噴水の音。
揺れる木々。
その石畳の上を、
二人並んで歩いている。
ミレイユと、
ジークだった。
王都では今。
連日のように、
貴族達が消えている。
逮捕。
地下牢。
財産没収。
王城は、
完全に大騒ぎだった。
そんな中。
ジークが、
呆れたように口を開く。
「……やりすぎではありませんか?」
低い声。
「また命を狙われますよ」
すると。
ミレイユは、
けろりとした顔で振り返った。
「クソ貴族を倒しただけです」
あっさり言う。
ジークが、
思わず眉を寄せた。
ミレイユは、
少しだけ視線を逸らす。
「……まぁ」
「やりすぎた感は、
否めませんけれど」
その瞬間。
ジークが、
ふっと吹き出した。
「ふふっ……」
珍しく、
肩を揺らして笑っている。
ミレイユが、
むっと頬を膨らませた。
「何ですかその顔は」
「いえ」
ジークは、
笑いを堪えるみたいに息を吐く。
「自覚はあったんだなと」
「ありますよ」
即答だった。
「わたくし、
昔から結構めちゃくちゃですもの」
「えぇ。
知っています」
また笑う。
ミレイユが、
じとっと睨んだ。
「なんだか今日、
やたら楽しそうですね」
するとジークは、
少しだけ目を細めた。
夕陽が、
銀髪を照らす。
「あなたが、
楽しそうなので」
静かな声。
「つられているだけです」
その言葉に。
ミレイユの瞳が、
ぱちりと瞬いた。
それから。
ふわりと笑う。
今度こそ。
心の底から。
そんな笑顔だった。
しばらく歩いたあと。
ミレイユが、
ぽつりと尋ねる。
「……それより」
「いつまで、
こちらにいられるんですか?」
ジークは、
少しだけ空を見上げた。
「一週間後に、
表彰式がありますので」
「それが終われば、
辺境へ戻ります」
静かな声。
「向こうも、
心配ですので」
その瞬間。
ミレイユの笑顔が、
ほんの少しだけ弱くなる。
「……そうですか」
小さな声だった。
けれど。
次の瞬間には、
もう笑っていた。
「まぁ、
いつでも来られる距離ですわね!」
すると。
ジークが、
真顔で返す。
「遠すぎます」
即答だった。
ミレイユが、
思わず吹き出す。
「ふふっ……!」
「確かに、
馬で十日ですものね」
「普通に遠いです」
「否定できませんね」
二人で笑う。
風が吹く。
どこか。
辺境にいた頃みたいな空気だった。
そして。
ミレイユが、
ぱっと顔を上げる。
金色の瞳が、
悪戯っぽく輝いた。
「あ!」
嫌な予感がした。
ジークが、
すっと目を細める。
ミレイユは、
満面の笑みだった。
「なら、
わたくしのお手伝いをしてくださいませ!」
「嫌な予感しかしませんね」
即答。
ミレイユは、
気にせず続ける。
「王都の畑改革です!」
「流通改善です!」
「あと地下水路の整備も――」
ジークが、
深いため息を吐いた。
「……また始まった。」
「怪我をしているんで、ゆっくりしてください」
「ゆっくりなんてしていられません」
完全に、
辺境時代の顔だった。
けれど。
ミレイユは、
嬉しそうに笑っている。
王女の笑顔じゃない。
悪女の笑みでもない。
ただ。
大好きな相棒を前にした、
普通の少女の顔だった。
その顔を見た瞬間。
ジークは、
もう一度小さく笑ってしまう。
結局。
昔から。
自分は、
この笑顔に弱かった。




