反撃開始
ミレイユの強さは、
圧巻だった。
剣を振るう度に、
賊が倒れる。
血が舞う。
怒号が響く。
金色の髪が、
夕陽の中で揺れていた。
まるで。
戦場へ降りた、
黄金の獣みたいだった。
だが。
それでも。
数が違いすぎる。
一人。
また一人。
賊は次々襲い掛かってくる。
ミレイユの肩が裂ける。
腕へ傷が走る。
頬を血が伝う。
呼吸が乱れる。
剣が重い。
足が、
少しずつ動かなくなる。
対岸では、
騎士達が叫んでいた。
「殿下!!」
「やめろぉぉぉっ!!」
だが。
誰も渡れない。
橋は落ちた。
届かない。
助けられない。
レオンは、
崩れた橋の前で奥歯を噛み締めていた。
拳から血が滲む。
それでも。
どうすることもできない。
ミレイユは、
ふらつきながら剣を構えた。
視界が揺れる。
息が苦しい。
体温が、
どんどん奪われていく。
……あぁ。
ぼんやりと思う。
まだ途中だったのにな。
やりたいこと、
たくさんあった。
食料問題も。
孤児院も。
学校も。
農地改革も。
まだ。
何も終わっていない。
でも。
もう、
駄目かもしれない。
手が震える。
剣が、
うまく握れない。
視界が、
少しずつ暗くなっていく。
賊が、
笑いながら近づいてくる。
「終わりだなぁ王女様ァ!!」
剣が振り上げられる。
その瞬間だった。
――――バァンッ!!!!
轟音が、
山へ響き渡った。
次の瞬間。
賊の腹が、
血を撒き散らしながら吹き飛ぶ。
空気が止まる。
誰もが、
反射で空を見上げた。
崖上。
夕陽を背に。
一頭の黒馬が、
土煙を巻き上げながら飛び出してくる。
そして。
その背に乗っていた男を見た瞬間。
ミレイユの瞳が、
大きく揺れた。
銀髪。
灰色の瞳。
長い外套を翻しながら、
片手で銃を構えている。
男は。
崖から、
そのまま飛び降りた。
馬ごと。
ドォンッ!!!
地面へ着地する。
土煙が舞う。
賊達が、
思わず後退る。
男は、
ゆっくり顔を上げた。
灰色の瞳が、
真っ直ぐミレイユを見る。
そして。
呆れたように、
小さく笑った。
「……諦めるなんて、
あなたらしくないですね」
聞き覚えのある声。
ミレイユの視界が、
大きく揺れる。
「……どうして、
貴方が……」
掠れた声。
すると男は、
肩へ銃を担ぎながら答えた。
「あなたが、
持ってこいと仰ったじゃありませんか」
風が吹く。
銀髪が揺れる。
ジーク・バンディアは、
どこか呆れたように息を吐いた。
ミレイユが、
ふらつきながら睨む。
「……持って来るの、
遅いですよ」
その瞬間。
ジークが、
小さく笑った。
「辺境からは遠いんですよ」
軽口だった。
なのに。
何故か、
泣きそうになる声だった。
次の瞬間。
ジークが、
腰の袋をミレイユへ放り投げる。
火薬。
弾。
そして。
見慣れた銃。
ミレイユの瞳が、
大きく見開かれる。
対岸の騎士達も、
騒然としていた。
「あ、あれは……!」
「銀髪……!?」
「まさか……!」
一人の騎士が、
震える声で叫ぶ。
「辺境騎士団最強――」
「ジーク・バンディアだ!!」
空気が変わる。
賊達の顔色が、
一気に青ざめた。
その名は。
辺境で知らぬ者はいない。
辺境最強の剣士。
そして。
“黄金姫の右腕”と呼ばれた男。
ジークは、
腰から二本の剣を抜く。
キィン――……
鋭い音が響いた。
灰色の瞳が、
獰猛に細まる。
そして。
ミレイユへ、
真っ直ぐ手を差し出した。
「立ち上がってください」
低い声。
だが。
燃えるような熱があった。
「これから、
反撃開始ですよ」
その瞬間。
ミレイユが、
小さく笑う。
血塗れのまま。
傷だらけのまま。
それでも。
先程までの、
消えかけた顔ではなかった。
ガチャリ――
火薬が装填される音。
ミレイユは、
ゆっくり銃を構える。
金色の瞳が、
獰猛に細められた。
そして。
ふわりと笑う。
「……わかっています」
その笑顔を見た瞬間。
賊達は、
本能で理解した。
終わったのは。
自分達の方だった。




