表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
85/111

視察

視察当日。


 


結局。


 


バンディア領からの荷物は、

最後まで届かなかった。


 


第一王女ミレイユの周囲には、

異様な緊張感が漂っていた。


 


護衛騎士は増員。


 


総勢三十名。


 


王女視察としては、

明らかに過剰だった。


 


だが。


 


誰一人、

異議を唱えなかった。


 


馬車の中。


 


ミレイユは、

静かに窓の外を眺めていた。


 


表情がない。


 


金色の瞳だけが、

妙に静かだった。


 


いつものように笑わない。


 


冗談も言わない。


 


その姿はまるで。


 


綺麗な人形みたいだった。


 


向かい側に座るレオンは、

何度か口を開きかけた。


 


だが。


 


結局、

何も言えなかった。


 


空気が重い。


 


ミレイユは、

ずっと地図を見ていた。


 


逃走経路。


 


街道。


 


地形。


 


視線だけが、

静かに動いている。


 


やがて。


 


馬車は、

細い山道へ入った。


 


崖沿い。


 


眼下には、

深い谷が広がっている。


 


そして。


 


前方には、

一本しかない古い橋。


 


ギシ…………


 


重たい音を立てながら、

馬車が橋を渡る。


 


レオンの眉が、

僅かに寄る。


 


嫌な地形だった。


 


逃げ場がない。


 


橋を落とされれば終わる。


 


その時だった。


 


ミレイユが、

ぽつりと呟く。


 


「……やっぱり嫌ね」


 


小さな声。


 


だが。


 


レオンの背筋を、

冷たいものが走った。


 


やがて。


 


馬車は、

伯爵邸へ到着する。


 


巨大な屋敷。


 


豪華な装飾。


 


だがどこか、

成金じみた下品さがあった。


 


玄関前には、

大量の使用人達。


 


そして。


 


中央で待っていた男が、

ゆっくり笑う。


 


グラディウス・ベルモルト。


 


肥え太った身体。


 


脂ぎった顔。


 


指には、

これ見よがしな宝石。


 


そして。


 


張り付いたような笑み。


 


「これはこれは!!」


 


粘つく声。


 


「第一王女殿下自らお越しいただけるとは!!」


 


深々と頭を下げる。


 


だが。


 


その目だけは、

全く笑っていなかった。


 


ミレイユは、

静かに伯爵を見る。


 


無表情。


 


感情が読めない。


 


そして。


 


完璧な王女の笑みを浮かべた。


 


「本日は、

よろしくお願いいたしますわ」


 


綺麗な声だった。


 


あまりにも綺麗すぎて。


 


逆に、

怖かった。


 


レオンは、

静かに目を細める。


 


……駄目だ。


 


殿下が完全に、

“戦闘態勢”へ入っている。


 


その後。


 


視察は、

異様なほど順調に進んだ。


 


穀物庫。


 


加工場。


 


保存庫。


 


どこも綺麗だった。


 


綺麗すぎた。


 


まるで。


 


最初から、

見せるためだけに整えられていたみたいに。


 


ミレイユは、

一言も余計なことを言わない。


 


ただ。


 


静かに見ている。


 


観察している。


 


その金色の瞳だけが、

妙に冷たかった。


 


やがて。


 


一行は、

最後の倉庫へ案内される。


 


重たい扉。


 


暗い室内。


 


積み上げられた木箱。


 


その瞬間だった。


 


ミレイユの足が、

ぴたりと止まる。


 


風が吹く。


 


鼻腔を掠める、

微かな匂い。


 


火薬。


 


一瞬でミレイユの瞳が、

大きく見開かれる。


 


次の瞬間。


 


「総員退避!!!!」


 


凄まじい声だった。


 


空気が凍る。


 


騎士達が、

反射で振り返る。


 


レオンの目が、

鋭く細まった。


 


ミレイユは、

叫ぶ。


 


「今すぐ離れて!!」


 


その瞬間。


 


グラディウス・ベルモルトが、

ゆっくり笑った。


 


粘つくような笑み。


 


目だけが、

醜く歪む。


 


「……もう遅い」


 


次の瞬間。


 


――ドゴォォォォンッ!!!!!!


 


世界が、

吹き飛んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ