届いた木箱
夕暮れ時。
バンディア領主邸には、
静かな慌ただしさが流れていた。
「王都から急ぎの荷です!!」
使用人の声が、
屋敷中へ響く。
応接室。
クロヴィス・バンディアは、
届けられた木箱を無言で見下ろしていた。
机の上には、
大量の瓶。
琥珀色のジャム。
色鮮やかなドライフルーツ。
乾燥肉。
見慣れない保存食まで並んでいる。
甘い香りが、
部屋中へ広がっていた。
クロヴィスは、
静かに一枚の手紙を開く。
読み進める。
数秒後。
深いため息が落ちた。
「……はぁ」
隣にいたジークが、
嫌な顔をする。
「なんです?」
クロヴィスは、
何も言わない。
ただ。
静かに手紙を差し出した。
ジークが受け取る。
読み進める。
そして。
「……はぁぁ……」
そっくりなため息が落ちた。
沈黙。
机の上には、
大量の保存食。
そして。
手紙の最後には、
綺麗な文字でこう書かれていた。
『追伸』
『王都の銃が扱いづらいので、
交換していただけませんか?』
『できればわたくしが使用していた物と交換希望です』
ジークが、
そっと手紙を閉じる。
「王女が銃なんて扱うわけないですよね」
真顔だった。
クロヴィスが、
静かに紅茶を飲む。
「何かあるな」
「ありますね」
即答。
「しかも急ぎです」
沈黙。
二人は、
机の上の保存食を見る。
王都で今、
爆発的に流行している王室製保存食。
最近では、
貴族どころか庶民街でも話題になっていた。
それが。
なぜか。
バンディア領へ大量に届いている。
しかも。
手紙の内容は、
完全に“ついで”みたいな顔で銃の話をしている。
ジークが、
額を押さえた。
「絶対ロクでもないこと考えてますよね」
「昔から変わらん」
クロヴィスが、
疲れた声で返す。
ジークは、
木箱の中を覗き込む。
「……これ全部、
殿下が作ったんですか?」
「正確には、
殿下主導だろう」
クロヴィスが、
静かにジャム瓶を持ち上げる。
光を受け、
琥珀色がきらりと輝いた。
「王都で市場改革を起こし」
「貴族を黙らせ」
「王室ブランドまで作ったと思えば」
「次は銃か」
深いため息。
ジークが、
ぽつりと呟く。
「山賊追い回してた頃と、
やってること変わってませんよね」
クロヴィスが、
無言で頷いた。
本当に変わっていない。
食を守ろうとして。
民を守ろうとして。
気づけば、
面倒事の中心にいる。
昔からずっと。
その時だった。
ジークが、
木箱の奥から別の包みを見つける。
「……ん?」
小さな紙が貼られていた。
そこには。
『新作・苺の蜜煮』
丸文字だった。
ジークが、
静かに固まる。
クロヴィスも、
視線を向けた。
数秒の沈黙。
そして。
二人同時に、
大きなため息を吐いた。
「……遊ぶ余裕はあるらしい」
「ですね」
呆れた声だった。
けれど。
その口元は、
少しだけ笑っていた。




