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捨てられた価値

王都は、

その日異様な熱気に包まれていた。


 


大通り。


 


露店。


 


市場。


 


至る所で、

人々が同じ話をしている。


 


「おい、もう食べたか!?」


 


「王室の干し果物!」


 


「安いのにめちゃくちゃ美味いぞ!」


 


「子供がずっと食ってる!」


 


「しかも日持ちするらしい!」


 


最初は、

物珍しさだった。


 


だが。


 


一度食べた者達が、

皆同じ顔をする。


 


驚き。


 


そして。


 


“理解”。


 


これまで価値がないとされていたもの。


 


傷がある。


 


形が悪い。


 


売れない。


 


市場へ並べられない。


 


そんな理由だけで、

捨てられてきた果物達。


 


それが。


 


こんなにも美味しくなるのかと。


 


王都中で、

爆発的に噂が広がっていく。


 


特に人気だったのは、

林檎の蜜煮と乾燥葡萄だった。


 


「王室の料理人が作ってるらしいぞ」


 


「マジかよ」


 


「しかも発案、

第一王女殿下だって」


 


「は?」


 


ざわつきが広がる。


 


第一王女。


 


病弱で。


 


長く辺境へ送られていた少女。


 


社交界からも姿を消していた王女。


 


そのはずだった。


 


だが今。


 


王都で最も話題の中心にいる。


 


そして。


 


それを、

面白く思わない者達もいた。


 


王城・大議場。


 


巨大な会場には、

貴族達がずらりと並んでいる。


 


大商会。


 


保守派貴族。


 


古参の大臣達。


 


空気は、

完全に敵意だった。


 


その中心で。


 


ミレイユだけが、

静かに微笑んでいる。


 


壇上。


 


淡い蒼のドレス。


 


長い金髪。


 


そして。


 


その美貌とは裏腹に。


 


放っている圧が、

完全に政治家だった。


 


最初に立ち上がったのは、

老舗商会の会頭だった。


 


「王女殿下」


 


低い声。


 


「これは、

市場への介入ではありませんかな?」


 


空気が張り詰める。


 


会頭は続けた。


 


「安価で大量に市場へ流せば、

既存商会は大打撃を受けます」


 


「価格崩壊も起こり得る」


 


「そもそも王族が商売など――」


 


その瞬間。


 


ミレイユが、

くすりと笑った。


 


小さな笑い声。


 


だが。


 


その場にいた誰もが、

息を止めた。


 


「面白いことを仰るのね」


 


静かな声。


 


「では質問ですわ」


 


金色の瞳が、

真っ直ぐ会頭を見る。


 


「貴方達は今まで、

“売れない果物”をどうしていました?」


 


沈黙。


 


会頭の顔が強張る。


 


ミレイユは、

笑みを崩さない。


 


「少し傷がある」


 


「形が悪い」


 


「大きさが揃わない」


 


「見栄えが悪い」


 


「――それだけで、

価値がないと切り捨てたのでしょう?」


 


空気が、

凍る。


 


誰も反論できない。


 


事実だからだ。


 


ミレイユは、

ゆっくり歩き出す。


 


ヒールの音だけが、

静かな会場へ響く。


 


「王室から出る余剰食材に加え」


 


「市場へ並べられなかった果物を、

適正価格で買い取る」


 


「加工し、

新たな価値へ変える」


 


「農民は救われ」


 


「廃棄は減り」


 


「国民は安価で栄養を得られる」


 


そこで。


 


ミレイユが、

にこりと笑った。


 


「何か問題でも?」


 


誰も口を開けない。


 


その時。


 


別の貴族が、

苛立った声を上げた。


 


「所詮は思いつきでしょう!」


 


「辺境帰りの小娘が!」


 


「病気療養していた王女に、

市場など――」


 


そこで。


 


ミレイユが、

ぴたりと止まった。


 


ゆっくり振り返る。


 


そして。


 


にこりと笑った。


 


ぞくり、とするほど綺麗な笑顔。


 


「えぇ」


 


静かな声。


 


「わたくしは辺境におりました」


 


「ですから」


 


金色の瞳が、

鋭く細められる。


 


「農民達が、

どれほど苦労して作っているか御存じですか?

私は今までずっとそばで見てきました」


 


空気が変わる。


 


誰も動けない。


 


ミレイユは、

静かに続けた。


 


「市場価格?」


 


「商会の利益?」


 


「素晴らしいですわね」


 


「ですが」


 


その瞬間。


 


声の温度が落ちた。


 


「形が悪いだけで、

食べられる命を捨て続ける方が」


 


「よほど歪ではなくて?」


 


沈黙。


 


完全な静寂。


 


大議場にいた全員が、

息を呑む。


 


ミレイユは、

ゆっくり会場を見渡した。


 


「利益を得るなとは申しません」


 


「ですが、

国民が痩せれば国も痩せます」


 


「農民が疲弊すれば、

市場もいずれ崩れます」


 


「違いますか?」


 


誰も、

反論できない。


 


ミレイユは、

そこで初めて柔らかく笑った。


 


「安心してくださいな」


 


「わたくしは、

皆様から利益を奪いたいわけではありません」


 


「今まで見捨てられていた価値を、

拾い上げているだけです」


 


その瞬間。


 


会場の空気が、

完全に変わった。


 


気付いてしまったのだ。


 


この王女。


 


感情だけで動いているのではない。


 


国民。


 


農民。


 


市場。


 


流通。


 


全部見た上で、

最適解を叩きつけている。

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