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深夜のドライフルーツ講習会

夜の王城。


 


昼間の喧騒が嘘みたいに、

廊下は静まり返っていた。


 


その中を。


 


三人の近衛騎士が、

重たい顔で歩いている。


 


レオン。


 


アルフレッド。


 


セシル。


 


そして。


 


レオンの肩には、

巨大な麻袋が担がれていた。


 


ごそごそ動いている。


 


怖い。


 


アルフレッドが、

小声で呟く。


 


「……本当に、

入ってるんですか?」


 


「入ってます」


 


レオンの声は死んでいた。


 


その瞬間。


 


袋の中から、

楽しそうな声が響く。


 


「ねぇレオン様」


 


「……なんでしょう」


 


「攫われる令嬢って、

こんな気持ちなのかしら」


 


「知りません」


 


即答だった。


 


セシルが真顔で前を向く。


 


「我々何をしているんでしょうか」


 


「考えたら負けです」


 


レオンが疲れた声で返す。


 


その時だった。


 


向こうから、

別の騎士達が歩いてくる。


 


「お、レオンじゃねぇか」


 


「夜勤帰りか?」


 


気安い声。


 


同じ騎士達らしい。


 


レオンは、

一瞬で無表情になった。


 


「えぇ少々荷物を」


 


「荷物?」


 


騎士達の視線が、

麻袋へ向く。


 


その瞬間。


 


袋が、

もぞもぞ動いた。


 


レオンの背筋が凍る。


 


やめろ。


 


今動くな。


 


だが。


 


袋の中から、

小さな声が響いた。


 


「……ぐるしい」


 


沈黙。


 


騎士達が、

ぴたりと止まる。


 


レオンが、

無言で袋を叩いた。


 


ごすっ。


 


「いたっ」


 


「気のせいです」


 


真顔だった。


 


騎士達が、

何とも言えない顔になる。


 


セシルが、

そっと空を見上げた。


 


帰りたい。


 


その後も。


 


「その袋なんだ?」


 


「食料です」


 


「動いてないか?」


 


「気のせいです」


 


「今声しなかった?」


 


「気のせいです」


 


レオンが、

全てを圧で乗り切った。


 


そして。


 


十分後。


 


ようやく。


 


騎士棟・近衛騎士用宿舎へ到着する。


 


レオンが、

静かに麻袋を下ろした。


 


「……到着しました」


 


次の瞬間。


 


袋が、

ばさぁっと開く。


 


中から。


 


金髪の王女が、

にこにこしながら出てきた。


 


「ありがとう!」


 


満面の笑み。


 


「攫われた令嬢の気持ちを味わえたわ!」


 


「理解しないでください」


 


レオンが、

即座に否定する。


 


ミレイユは、

全く聞いていなかった。


 


きょろきょろと、

部屋を見回す。


 


騎士用宿舎。


 


質素だが、

綺麗に整えられている。


 


小さな机。


 


本棚。


 


簡易キッチン。


 


窓際には、

手入れされた観葉植物まであった。


 


ミレイユの瞳が、

ぱっと輝く。


 


「うわぁ〜!」


 


楽しそうな声。


 


「素敵!!」


 


ずかずかと部屋へ入っていく。


 


「狭いけれど、

落ち着くわね!」


 


「このキッチン可愛い!」


 


「陽当たりもいい!」


 


そして次の瞬間。


 


ミレイユが、

真顔で呟いた。


 


「……わたくし、

ここに住みたいですわ」


 


三人が、

ぴたりと止まる。


 


空気が凍った。


 


冗談に聞こえない。


 


一切。


 


レオンが、

ゆっくり振り返る。


 


「駄目です」


 


「何故?」


 


「王女だからです」


 


ミレイユは、

不満そうに唇を尖らせた。


 


「王城より快適そうなのに」


 


「問題発言です」


 


アルフレッドとセシルが、

無言で頷く。


 


だが。


 


ミレイユは、

もう次のことを考えていた。


 


にこっ。


 


嫌な予感しかしない笑顔。


 


「さぁ!」


 


ぱんっ、と手を叩く。


 


「では、

始めましょう!」


 


アルフレッドが、

恐る恐る聞く。


 


「……何をですか?」


 


ミレイユは、

当然のように麻袋を漁った。


 


次々と出てくる。


 


包丁。


 


まな板。


 


大量の果物。


 


そして。


 


謎の干し網。


 


セシルが、

真顔になる。


 


「何故そんなものを」


 


「辺境から持ってきました!」


 


誇らしげだった。


 


ミレイユは、

果物を机へ並べながら宣言する。


 


「これからあなた方三名へ」


 


金色の瞳が、

きらきら輝く。


 


「ドライフルーツの作り方をお教えします!」


 


沈黙。


 


三人の顔から、

表情が消えた。


 


レオンが、

静かに聞く。


 


「……今からですか」


 


「今からです」


 


「深夜ですが」


 


「深夜だからです」


 


意味がわからない。


 


ミレイユは、

もう完全にやる気だった。


 


「夜の方が温度が安定しますもの!」


 


「あと静かで楽しいわ!」


 


完全に目が輝いている。


 


逃げられない。


 


アルフレッドが、

小声で呟く。


 


「俺達近衛騎士ですよね……?」


 


セシルが、

遠い目をした。


 


「今は見習い料理人かもしれません」


 


「違います」


 


レオンだけが、

ギリギリ現実へ抵抗していた。


 


だが。


 


次の瞬間。


 


「アルフレッド様、

リンゴを薄く切ってください」


 


「セシル様は柑橘を」


 


「レオン様風通しの良い場所を探してください」


 


完璧な指示だった。




三人が反射で動く。





レオンは、

無言で窓際へ干し網を吊るした。


……何故近衛騎士が、

深夜に果物を干しているのだろう。


誰も、

答えられなかった。




完全に。


 


辺境の王女へ、

支配されている。

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