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潜入計画

国王は、

明らかに怒っていた。


 


謁見室へ落ちる空気は重い。


 


侍女達は顔を青ざめさせ、

騎士達すら視線を伏せている。


 


その中心で。


 


ミレイユだけが、

涼しい顔で立っていた。


 


……誰よ、

バラしたの。


 


内心では、

普通に犯人探しをしていた。


 


だが表情には出さない。


 


完璧な王女の微笑み。


 


国王が、

低い声で口を開く。


 


「また使用人棟へ料理を運ばせたそうだな」


 


怒気を孕んだ声。


 


普通なら、

萎縮する。


 


だが。


 


ミレイユは、

ふわりと笑った。


 


「えぇ」


 


優雅に頷く。


 


「ダラダラと仕事をしていて、

目障りでしたので」


 


周囲が息を呑む。


 


ミレイユは続けた。


 


「少々、

虐めて差し上げました」


 


完全に悪女だった。


 


侍女達が、

顔面蒼白になる。


 


違います。


 


むしろ救われました。


 


だが誰も、

口を挟めない。


 


国王の額に、

青筋が浮かぶ。


 


「貴様……!」


 


だが。


 


ミレイユは、

一歩も引かなかった。


 


むしろ。


 


金色の瞳を、

ゆっくり細める。


 


「不思議ですわよね」


 


静かな声。


 


広間が、

しん、と静まり返る。


 


ミレイユは、

にこりと笑った。


 


ぞくり、とするほど綺麗な笑みだった。


 


「何故、

貴族が侍女を虐めることは許されるのに」


 


「施しは、

許されないのでしょう?」


 


空気が、

凍りつく。


 


誰も動けない。


 


ミレイユは、

首を傾げる。


 


まるで。


 


本当に不思議そうに。


 


「それなら」


 


金色の瞳が、

真っ直ぐ国王を見る。


 


「わたくしは、

虐めますわ」


 


にこり。


 


完璧な笑顔だった。


 


沈黙。


 


国王が言葉を失う。

反論できない。


 


施しは禁止。


 


だが。


 


“廃棄物処理”と

“侍女への命令”なら、

王族権限の範囲内。


 


完全に。


 


ルールの穴を突かれていた。


 


その瞬間。


 


宰相が、

そっと顔を覆った。


 


……この王女面白すぎる。


 


そして。


 


長い説教が終わった頃には、

外はすっかり夕暮れだった。


 


王城の廊下。


 


ミレイユは、

三人の近衛騎士を引き連れながら歩いている。


 


レオン。


 


アルフレッド。


 


セシル。


 


全員どこか疲れていた。


 


主に精神が。


 


その時だった。


 


ミレイユが、

ぴたりと立ち止まる。


 


そして。


 


くるり、と振り返った。


 


「レオン様」


 


「はい」


 


嫌な予感しかしなかった。


 


「本日休暇ですか?」


 


「いえ」


 


即答。


 


アルフレッドとセシルが、

顔を見合わせる。


 


話が見えない。


 


ミレイユは、

じっとレオンを見る。


 


「ここ最近、

お休みされてませんよね?」


 


「……いえ」


 


レオンの眉が、

僅かに寄る。


 


そして次の瞬間。


 


ミレイユが、

ぐいっとレオンの腕を引っ張った。


 


「!?」


 


そのまま。


 


背伸びして、

耳元へ囁く。


 


「昨夜お部屋に連れて行ってくださると、

約束しました」


 


レオンが、

真顔になる。


 


「それは一方的です」


 


「この約束があったから」


 


ミレイユが、

にこっと笑う。


 


「わたくし、

あの説教も笑顔で乗り切れたんです」


 


「連れて行ってください」


 


アルフレッドとセシルが、

固まる。


 


近い。


 


距離が近い。


 


というか。


 


なんか、

妙に仲が良い。


 


レオンが、

深いため息を吐く。


 


「いや……」


 


本気で困っていた。


 


「貴方が突然来たら、

皆驚きます」


 


「まぁ」


 


ミレイユが、

ぱちりと瞬きをする。


 


そして次の瞬間。


 


何かを閃いた顔になる。


 


レオンの背筋に、

嫌な汗が流れた。


 


あ、

駄目だ。


 


これ。


 


絶対ろくでもない。


 


ミレイユは、

ぱっとアルフレッド達を見る。


 


「そうよね」


 


満面の笑み。


 


「二人も巻き込みましょう」


 


「「え?」」


 


嫌な予感しかしない。


 


ミレイユは、

楽しそうに指を立てた。


 


「アルフレッド様は荷物持ち」


 


「セシル様は先導」


 


「そしてレオン様」


 


にこり。


 


「わたくしを袋に入れて運んでください」


 


沈黙。


 


廊下へ、

静寂が落ちた。


 


ミレイユは、

胸を張る。


 


「それならバレません」


 


「我ながら完璧です」


 


アルフレッドとセシルが、

完全に停止する。


 


何を言われているのか、

理解できなかった。


 


だが。


 


レオンだけは違った。


 


全部理解できてしまった。


 


理解できるからこそ。


 


ゆっくりと、

額を押さえる。


 


……頭が痛い。


 


この王女。


 


本当に袋に入って運ばれかねない。

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