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土が結んだ出会い

ミレイユが、

呆然と固まっている。


 


風だけが、

静かに吹き抜けた。


 


ジンジャーは、

きょとんとミレイユを見ていたが。


 


隣に立つルシアンが、

ふっと小さく笑った。


 


「ジンジャー」


 


穏やかな声。


 


「この方は――」


 


深緑の瞳が、

静かにミレイユを見る。


 


「第一王女、

ミレイユ・ヴェルディア殿下だよ」


 


その瞬間。


 


ジンジャーの動きが、

完全に止まった。


 


「…………え?」


 


ぱちり。


 


丸い瞳が、

大きく見開かれる。


 


そして次の瞬間。


 


「えぇっ!?」


 


ぶわっ、と顔が赤くなった。


 


慌てて立ち上がる。


 


「し、ししし失礼しました!!」


 


両手で口元を塞ぐ。


 


完全に混乱していた。


 


「わ、わたし、

あんな……!」


 


「トマトの花とか……!」


 


「う、うわぁぁぁ……!!」


 


そのまましゃがみ込みそうな勢いだった。


 


だが。


 


ミレイユは、

まだ固まっていた。


 


……え。


 


この子。


 


ルシアンの妹?


 


あの、

完璧貴公子の?


 


脳内で、

全く結びつかない。


 


あまりにも。


 


“土”側の人間すぎた。


 


その様子を見て。


 


ルシアンが、

少しだけ困ったように笑う。


 


「……何か、

妹が失礼を?」


 


低く落ち着いた声だった。


 


けれど。


 


どこか、

妹を庇う兄の顔だった。


 


ミレイユは、

はっと我に返る。


 


そして。


 


ふわりと笑った。


 


さっきまでの、

王女の笑顔じゃない。


 


辺境にいた頃みたいな、

柔らかい笑顔だった。


 


「いいえ」


 


静かな声。


 


「とても博学で、

楽しい時間でした」


 


その瞬間。


 


ジンジャーの瞳が、

じわっと潤む。


 


「はぅ……」


 


変な声が漏れた。


 


嬉しすぎて、

限界だった。


 


ルシアンが、

静かに目を瞬く。


 


妹が。


 


こんな顔で笑っているのを、

いつぶりに見ただろう。


 


外に出たらいつも、

空気を読んで。


 


怯えて。


 


静かに縮こまっていたのに。


 


今のジンジャーは、

まるで別人みたいだった。


 


そして。


 


気づけば。


 


三人は、

自然と話し始めていた。


 


ジンジャーが育てている、

小さな鉢植えの話。


 


日当たりの悪さ。


 


虫除けの工夫。


 


ミレイユが、

辺境で失敗した保存野菜の話をすると。


 


ジンジャーが、

ころころ笑う。


 


ルシアンは、

そんな二人を静かに見ていた。


 


不思議だった。


 


第一王女。


 


本来なら、

もっと遠く。


 


触れることすら許されない存在のはずなのに。


 


けれど。


 


父から聞かされていた通りだった。


 


博識で。


 


聡明で。


 


誰より民を見ていて愛している王女。


 


それなのに。


 


ミレイユがいるだけで、

張り詰めていた空気がほどけていく。


 


まるで。


 


春の日差しが、

静かに雪を溶かしていくみたいに。





その時だった。


 


「殿下」


 


低い声が響く。


 


石畳を踏み、

一人の騎士が歩いてくる。


 


赤髪。


 


鋭い眼差し。


 


近衛騎士副団長、

レオン・グラディースだった。


 


レオンは、

ミレイユを見るなり小さく息を吐く。


 


「こちらにいらっしゃいましたか」


 


その視線が、

ルシアンへ移る。


 


「……ルシアン様」


 


ルシアンも、

静かに頷いた。


 


張り詰めた空気。


 


ほんの僅かに。


 


緊張が走る。


 


だが。


 


そんな空気など、

まるで気づかないように。


 


ミレイユは、

少し困ったように笑った。


 


「ごめんなさい」


 


夜風が、

金髪を揺らす。


 


「少し、

疲れてしまって」


 


その言葉に。


 


レオンの表情が、

ほんの僅かに和らぐ。


 


そして。


 


ルシアンだけが、

静かにミレイユを見つめていた。


 


宴の中で見せていた、

完璧な王女の顔ではない。


 


今ここにいる彼女は。


 


土の話で笑う、

普通の少女みたいだった。

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