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黄色い花を知る人

ミレイユは園庭を歩いていた。


 


笑い声が遠い。

音楽も遠い。

煌びやかな宴から逃げるように。


 


一人になれる場所を探して。


 


息のできる場所を探して。


 


やがて。


 


花々に囲まれた小さな東屋が見えた。


 


その中の椅子には、

一人の少女が座っている。


 


年は同じくらいだろうか。


 


柔らかなオレンジ色の髪。


 


上質なドレス。


 


けれど。


 


少女は宴ではなく、

手元ばかり見ていた。


 


「こんばんは」


 


少女が顔を上げる。


 


少し驚いた顔。


 


ミレイユは微笑んだ。


 


「お隣、よろしいかしら」


 


「え、えぇ」


 


腰を下ろす。


 


そこで。


 


ミレイユの視線が、

少女の手にあるハンカチへ落ちた。


 


端に刺繍された小さな黄色い花。


 


思わず口が動く。


 


「……トマトの花」


 


少女が固まった。


 


「え?」


 


「トマトの花ですよね?」


 


数秒。


 


少女はぱちぱちと瞬きを繰り返した。


 


そして。


 


勢いよく身を乗り出す。


 


「分かるんですか!?」


 


「え?」


 


今度はミレイユが驚く。


 


「皆様、黄色い花としか仰らなくて……!」


 


少女の目が輝いていた。


 


「トマトなんです!」


 


完全に盛り上がった。




「では、これは?」


 


少女が慌てて本から栞を取り出す。


 


挟まれていたのは、

紫色の小さな花。


 


ミレイユは即答した。


 


「じゃがいも」


 


「!!」


 


少女が立ち上がる。


 


「本当に分かるんですか!?」


 


「白い花やピンクの花もありますよね」


 


「そうなんです!!

では、こちらはどうでしょう?」


 


ジンジャーは、

さらに一枚の栞を取り出した。


 


今度は。


 


小さな白い花。


 


釣り鐘のような形をしている。


 


ミレイユは、

少し目を細めた。


 


「ブルーベリーですね」


 


「!!」


 


ジンジャーの瞳が輝く。


 


「正解です!」


 


嬉しそうに栞を抱きしめる。


 


「私、この花が大好きなんです」


 


ミレイユも頷いた。


 


「可愛らしいですよね」


 


「えぇ!」


 


そこで。


 


ミレイユは、

ふと思い出したように続けた。


 


「ブルーベリーは土選びが難しいですし、

酸性土壌でないと、

なかなか上手く育ちませんものね」


 


沈黙。


 


ジンジャーが固まった。


 


数秒後。


 


ゆっくりと立ち上がる。


 


「…………」


 


「そこまで分かるんですか?」


 


震える声だった。


 


ミレイユは首を傾げる。


 


「え?」


 


「普通は花の話しかしません!」


 


ジンジャーが叫んだ。


 


「皆様そこから土の話には飛びません!!」


 


「そうなのですか?」


 


「そうなんです!!」


 


完全に意気投合していた。

感動したような顔だった。




「ジンジャー」


 


低い声が響いた。


 


少女が振り返る。


 


ぱっと顔が明るくなる。


 


「お兄様!」


 


その声に。


 


ミレイユの動きが止まった。


 


現れた青年を知っていたからだ。


 


金糸のような髪。


 


深い緑の瞳。


 


今日。


 


婚約者として紹介されたばかりの青年。


 


ルシアン・エヴァルドだった。


 


「あら」


 


ジンジャーが嬉しそうに笑う。


 


「お兄様、聞いてください」


 


「この方、トマトの花ご存知なんです!」


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