辺境の剣
「……暇ですねぇ」
窓辺へ立ちながら、
ミレイユがぽつりと呟いた。
王城の空は、
今日も綺麗だった。
けれど。
高い壁。
閉ざされた部屋。
どこか、
鳥籠みたいだった。
ソファ横に控えていたレオンが、
静かに口を開く。
「謹慎ですので」
「そうなのよねぇ」
ミレイユは、
小さくため息を吐く。
それから。
ふと、
振り返った。
「……ところで」
金色の瞳が、
じっとレオンを見る。
「謹慎というのは、
“部屋から出るな”という意味なのかしら?」
レオンの眉が、
僅かに動く。
「そうだと思います」
「なるほど」
ミレイユは、
妙に納得した顔で頷いた。
そして次の瞬間。
「では、
部屋の中でなら何をしても問題ありませんね?」
レオンが、
嫌な予感を覚える。
だが。
止める前に。
ミレイユは、
すたすたとベッドへ向かった。
そして。
ひょい、と。
ベッド下から、
何かを引っ張り出す。
「……」
「……え?」
アルフレッドとセシルの目が、
同時に見開かれた。
木剣だった。
しかも二本。
ミレイユは、
埃をぱんぱん払いながら、
不満そうに唇を尖らせる。
「なんでコソコソ隠さなきゃいけないのかしらねぇ」
完全に常習犯の動きだった。
レオンが、
静かに額を押さえる。
「……いつ準備されたんですか」
「辺境から持ち帰りました」
即答。
しかも、
少し誇らしげだった。
アルフレッド達が、
完全に固まる。
王女が。
謹慎中に。
木剣を隠し持っている。
意味がわからない。
だが。
ミレイユは、
そんな周囲を気にしない。
くるり、と木剣を回す。
その動きが、
妙に綺麗だった。
そして。
にこり。
「お相手願えますか?」
レオンは、
真顔で返した。
「結構です」
「姫の命令です」
即座に被せる。
「お相手してくださいません?」
「拒否権がないじゃないですか」
「はい」
満面の笑みだった。
レオンが、
深いため息を吐く。
その横で。
ミレイユは、
もう一本の木剣を投げ渡した。
ぱしっ、と。
レオンが反射的に受け取る。
手に馴染む重さ。
その瞬間。
レオンの空気が、
僅かに変わった。
ミレイユは、
それを見逃さない。
金色の瞳が、
楽しそうに細められる。
「アルフレッド様、
セシル様」
「は、はい!」
「誰か来たら教えてくださいね」
近衛騎士二人が、
顔を見合わせる。
完全に共犯扱いだった。
だが。
何故か断れない。
ミレイユは、
木剣を構える。
その姿勢を見た瞬間。
レオンの目が、
僅かに細まった。
……綺麗だ。
無駄がない。
しかも。
実戦寄り。
王族の剣ではない。
辺境で実際に振るってきた剣だ。
ミレイユが、
ふわりと笑う。
「では」
次の瞬間。
床を蹴った。
――速い。
レオンの瞳が、
大きく見開かれる。
ガキィン!!
激しい音が、
部屋へ響いた。
木剣同士がぶつかる。
ミレイユは、
そのまま体勢を低く落とした。
流れるような動き。
足払い。
突き。
一切迷いがない。
アルフレッド達が、
呆然と目を見開く。
強い。
しかも。
想像以上に。
レオンが、
一歩引きながら受け流す。
だが。
ミレイユは止まらない。
攻撃が、
重い。
王族特有の“型だけの剣”ではない。
本当に。
鍛え上げられた剣だった。
ガキィン!!
再び激突する。
その瞬間。
ミレイユが、
楽しそうに笑った。
「さすが近衛騎士副団長ですね」
レオンが、
眉を寄せる。
だが次の瞬間。
ミレイユは、
さらりと言った。
「ジーク様には負けますが、
貴方も強いです」
レオンの空気が、
ぴたりと止まる。
……誰だ。
脳裏に浮かぶのは、
銀髪の辺境公爵子息。
ミレイユは、
木剣をくるりと回した。
そして。
悪戯っぽく笑う。
「ちなみに」
金色の瞳が、
楽しそうに細められる。
「わたくし、
そのジーク様より強いんですよ」
次の瞬間。
――ガキンッ!!
レオンの木剣が、
弾き飛ばされた。
空中で回転し。
遠くへ転がる。
沈黙。
レオンが、
目を見開く。
ミレイユは、
木剣を肩へ担ぎながら笑った。
辺境にいた頃みたいに。
自由で。
生き生きと。
「まだまだですね」
その瞬間。
レオンの背筋に、
ぞくり、と何かが走った。
この人は。
本当に何者なんだ。
民を救い。
畑を耕し。
料理を作り。
王へ噛み付き。
そして。
近衛騎士副団長すら、
剣で圧倒する。
窓から差し込む光の中。
木剣を持って笑う王女は。
あまりにも綺麗で。
あまりにも危うかった。




