生まれだけで
「……待ってください」
馬車へ乗り込もうとしたところで、
ミレイユは足を止めた。
騎士たちが、一斉に振り返る。
ミレイユは静かに問いかけた。
「ここに、庶民出身者はいますか?」
空気が止まる。
騎士たちは顔を見合わせた。
まるで、
何を聞かれたのかわからないような顔だった。
やがて隊長格の騎士が、
困ったように答える。
「……失礼ながら、庶民は騎士にはなれません」
ミレイユは眉を寄せた。
「どうしてですか?」
「決まりだからです」
即答だった。
迷いもない。
当たり前を答えるような口調。
その瞬間。
ミレイユの胸の奥が、
じわりと熱くなる。
「……おかしな決まりですね」
騎士たちが目を見開く。
ミレイユは真っ直ぐ彼らを見た。
「庶民にも、優秀な方たちはいるでしょう?」
沈黙。
誰も答えない。
いや。
答えられないのだ。
“そういうものだから”。
それだけで、
世界が出来上がっている。
ミレイユは小さく息を吐き、
そのまま馬車へ乗り込んだ。
重い扉が閉まる。
馬車がゆっくりと動き出した。
向かう先は、医院。
窓の外では、
荒れた村が後ろへ流れていく。
すると。
馬車の外から、
小さな話し声が聞こえた。
「庶民が騎士になったら、秩序なんて守れないだろ」
「これだから子供は……」
「おい、聞こえるぞ。やめろ」
ミレイユは、ゆっくり目を閉じた。
庶民だから。
ただそれだけで。
夢も。
未来も。
最初から閉ざされている。
……なんなんだ、この国は。
胸の奥が、ざわつく。
前世の記憶が蘇る。
日本でも、
警察官になるには厳しい身辺調査があると聞いたことがある。
家族に犯罪歴があれば難しい場合もある、と。
でも。
この国は違う。
彼らは、
何も悪いことをしていない。
ただ“庶民”というだけで。
生まれだけで。
未来を奪われている。
馬鹿げている。
ミレイユは窓の外を見る。
痩せ細った子供。
崩れた家。
干上がった畑。
そのすべてが、
まるでこの国の歪みを映しているようだった。
――私は。
本当に、
何も知らなかったんだ。




