同じ空の下で
王都から遠く離れた場所に――その村はあった。
馬車の窓から見えた景色に、
ミレイユは言葉を失う。
乾いた大地。
ひび割れた土。
干上がった水路。
風が吹くたび、砂埃だけが舞っていた。
「……ここ、なの?」
か細い声が漏れる。
御者が重々しく頷いた。
「はい。例の女の故郷の村になります」
馬車がゆっくり進む。
だが。
そこに、
“活気”というものは存在しなかった。
村人たちは皆、
痩せ細っていた。
頬はこけ、
服はボロボロ。
子供ですら、
虚ろな目でこちらを見ている。
……目に、光がない。
ミレイユの胸がざわつく。
これが。
これが、
“飢え”……?
王城では、
毎日のように料理が余っていた。
食べきれず、
大量に捨てられていた。
なのに。
同じ国で。
同じ空の下で。
こんなことが起きていたの?
馬車が止まる。
「姫様、危険ですので馬車の中で――」
「降ります」
即答だった。
騎士たちが顔を見合わせる。
だがミレイユは気にしない。
土の上に降り立った瞬間、
乾いた風が頬を撫でた。
しばらく歩く。
村の奥。
そこには――崩れ落ちた家があった。
屋根は半分砕け、
壁も焼け焦げている。
窓ガラスは割れ、
家具まで外へ投げ出されていた。
ミレイユは立ち止まる。
「……ここが?」
騎士が低く答えた。
「はい。あの女の家になります」
ミレイユは目を見開いた。
「どうして……崩れているの?」
騎士は少し言いづらそうに口を開く。
「姫様を刺した報復による暴動かと」
その瞬間。
胸が、ぎゅっと締め付けられた。
報復。
頭の奥で、
あの日の叫び声が蘇る。
『少しは民のことを考えろよ!!』
ミレイユは唇を噛む。
「……家族は?」
「全員重傷です」
騎士の声は硬い。
「暴行を受け、現在は医院へ入院しております」
ミレイユは崩れた家を見つめた。
風が吹く。
壊れた扉が、
ぎぃ……と小さく揺れた。
ここで、
あの女は暮らしていた。
飢えながら。
苦しみながら。
それでも、
必死に生きていた。
ミレイユは、ゆっくり顔を上げる。
「……では向かいましょう」
その声は、
震えていた。




