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その王女、塩を強奪する

扉が、乱暴に叩かれる。


 


ドンドンドンッ!!


 


「ミレイユ様!!」


 


昼下がりの屋敷に、

低い怒声が響いた。


 


だが。


 


部屋の中から返ってきたのは、

呑気な声だった。


 


「はーい」


 


勢いよく扉が開く。


 


そこに立っていたのは、

険しい顔をしたジークだった。


 


そして。


 


開かれた部屋を見た瞬間、

彼は深いため息を吐く。


 


……また増えている。


 


植物が。


 


窓辺。


 


棚。


 


机。


 


床。


 


天井から吊るされた鉢。


 


九年の歳月を経て、

ミレイユの部屋は半分温室になっていた。


 


陽の光が差し込み、

葉がきらきら揺れている。


 


その中心で。


 


ミレイユは、

何事もない顔で葉水をしていた。


 


「お聞きしてもよろしいでしょうか」


 


ジークの声が低い。


 


ミレイユは、

植物へ霧吹きをかけたまま答える。


 


「何でしょう」


 


「先日、

賊から奪い返した荷物ですが」


 


ぴたり。


 


霧吹きが止まる。


 


ジークの目が細まった。


 


「……触っておられませんよね?」


 


沈黙。


 


鳥の鳴き声だけが聞こえる。


 


ミレイユは、

さっと視線を逸らした。


 


「聞いておられますか?」


 


「賊が伯爵家の倉庫から盗んだという荷物でしょう?」


 


ミレイユは、

何事もない顔で葉を撫でる。


 


「それをラウゼン側へ運ぼうとしていたので、

途中で止めた件ですよね」


 


「えぇ」


 


ジークの圧が強まる。


 


「それで伯爵側が、

“荷物が足りない”と騒いでいるのです」


 


「へぇーーーそうなのですかー」


 


棒読みだった。


 


ジークが真顔になる。


 


「嘘が下手すぎませんか」


 


ミレイユは、

ふいっと顔を背ける。


 


「そもそもあれ、

絶対ラウゼン側と繋がっておりますよね?」


 


「証拠がありません」


 


「ですが真っ黒です」


 


「だからといって、

勝手に持ち去っていい理由にはなりません」


 


その瞬間。


 


ミレイユが、

心底不思議そうな顔をした。


 


「持ち去っておりませんよ?」


 


「では何です」


 


「クソ貴族を懲らしめただけです」


 


「その貴方も貴族です!!

いや、貴方は王族です!!」


 


部屋に怒声が響く。


 


植物の葉がびくっと揺れた。


 


ミレイユとジークが、

じっと睨み合う。


 


数秒。


 


先に折れたのは、

ジークだった。


 


彼は額を押さえ、

深いため息を吐く。


 


「……何を持ってこられたのですか」


 


ミレイユの顔が、

ぱぁっと明るくなった。


 


「塩です!」


 


満面の笑みだった。


 


昔から変わらない、

あの笑い方。


 


ジークの頭痛が加速する。


 


だがミレイユは止まらない。


 


「やっと大量に確保できたのです!」


 


「これで魚も肉も保存できます!」


 


「冬越えの備蓄が一気に楽になりますよ!」


 


興奮したように、

机の上の袋を抱き締める。


 


「何が“貴族専用の高級塩”ですか!」


 


「塩なんて庶民こそ必要なのです!!」


 


真っ直ぐな瞳だった。


 


悪びれる様子は、

一切ない。


 


ジークは、

しばらく黙っていたが。


 


やがて。


 


また深いため息を吐いた。


 


「……だから我々の中では辺境の黄金姫ではなく、

“辺境の山賊姫”と呼ばれるのです」


 


「失礼ですね」


 


ミレイユは、

真顔で言った。


 


「民の食卓を守るためですよ」


 


「盗品で?」


 


「戦利品です」


 


「言い換えても犯罪です」


 


だが。


 


ミレイユは、

全く反省していなかった。

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