表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/114

守る者

村の外れ。


 


小高い丘の上に、

小さな慰霊碑が建てられていた。


 


まだ新しい石。


 


手向けられた花。


 


風が吹くたび、

白い花弁が静かに揺れる。


 


空はどこまでも青かった。


 


その前に。


 


一人の少女が立っている。


 


金色の髪が、

風になびいていた。


 


ミレイユは、

静かに慰霊碑を見つめている。


 


小さな手には、

あの日拾ったイチゴの苗が握られていた。

 


「……また、

ここにいたのか」


 


低い声。


 


後ろから現れたクロヴィスが、

静かに歩み寄る。


 


ミレイユは、

振り返らなかった。


 


「えぇ」


 


小さな返事。


 


風が、

二人の間を抜けていく。


 


しばらくの沈黙のあと。


 


クロヴィスが、

静かに口を開いた。


 


「国王へ報告は上げた」


 


ミレイユの睫毛が、

僅かに揺れる。


 


「君が賊を倒した件は、

こちらで隠蔽しておいた」


 


静かな声だった。


 


ミレイユは、

少しだけ目を細める。


 


そして。


 


くすりと笑った。


 


「そうですね」


 


「王女が銃で賊を撃ったなんて、

大問題ですもの」


 


冗談みたいに笑う。


 


だが。


 


その笑顔は、

少しだけ寂しかった。


 


クロヴィスは、

そんなミレイユを見つめる。


 


「……賊を全員生かしたのは、

なぜだ」


 


低い問い。


 


ミレイユは、

慰霊碑へ視線を戻した。


 


いちごの苗をそっと置く。


 


「民を救う手を」


 


ぽつり。


 


「血で染めたくなかったからです」


 


風が吹く。


 


金色の髪が揺れる。


 


ミレイユは、

静かに続けた。


 


「これは、

わたくしのエゴです」


 


クロヴィスは、

何も言わなかった。


 


ただ。


 


その横顔を、

静かに見つめている。


 


まだ幼い。


 


まだ未熟だ。


 


それでも。


 


この少女は。


 


確かに。


 


王になろうとしていた。


 


やがて。


 


ミレイユが、

ゆっくり顔を上げる。


 


金色の瞳が、

真っ直ぐ前を見据えた。


 


もう。


 


泣いてはいなかった。


 


「わたくし」


 


静かな声。


 


けれど。


 


そこには、

確かな意志が宿っていた。


 


「もっと強くなります」


 


「民を守れるように」


 


「もっと知識をつけて」


 


「もっと力をつけます」


 


拳を握る。


 


細い指先が、

小さく震えていた。


 


悔しさを、

忘れないように。


 


「あの日のことを、

絶対に無駄にはしません」


 


風が吹く。


 


遠くでは、

再び畑を耕す人々の姿が見えた。


 


壊された村。


 


失われた命。


 


消えない傷。


 


それでも。


 


人は生きていく。


 


だから。


 


ミレイユは、

前を向く。


 


「今度は絶対に」


 


低く。


 


強い声。


 


「死者など出しません」


 


その言葉に。


 


クロヴィスは、

静かに目を細めた。


 


辺境の風が吹く。


 


少女だった王女は。


 


この日。


 


初めて。


 


“守る者”になった。





その少し後ろ。


 


丘の下。


 


ジークは、

静かに二人を見上げていた。


 


風に揺れる金髪。


 


慰霊碑の前で、

真っ直ぐ立つ小さな背中。


 


数日前まで。




村人の死に、

声を上げて泣いていた少女。


 


けれど今。


 


ミレイユは、

前を向いている。


 


守るために。


 


失わないために。


 


痛みごと、

背負おうとしている。


 


ジークは、

小さく拳を握った。


 


胸の奥が、

妙に熱かった。


 


悔しかった。


 


強くなりたいと思った。


 


もっと。


 


もっと。


 


彼女の隣へ立てるように。


 


あの背中へ、

追いつけるように。


 


――並べる男になりたい。


 


風が吹く。


 


慰霊碑の前で立つ少女は、

どこまでも真っ直ぐだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ