怒りの果てに
木の上。
枝葉に身を隠したまま。
ミレイユは、
男達の会話を聞いていた。
笑い声。
酒の匂い。
奪われた野菜。
全部が、
吐き気がするほど不快だった。
だが。
次の瞬間。
男の一人が、
げらげら笑いながら言った。
「でもよぉ!」
酒瓶を振る。
「あのガキ殺した時、
マジで面白かったよな!」
ミレイユの呼吸が止まる。
男は、
子供の声を真似しながら笑った。
「『母ちゃんにあげなきゃいけないんだ!』」
「『幸せになれるって言われたんだぁ〜!』だとよ!」
下品な笑い声。
別の男も吹き出す。
「必死すぎだろ!」
「あれ結局なんだったんだ?」
「知らねぇよ!
惨めだよなぁ!」
その瞬間。
ミレイユの中で、
何かが切れた。
ふざけるな。
ふざけるな。
ふざけるな。
気づけば。
銃を構えていた。
震える指。
涙で滲む視界。
けれど。
引き金だけは、
迷わなかった。
――ドォンッ!!!
轟音が、
森を裂いた。
鳥達が、
一斉に飛び立つ。
「ぐあぁっ!!」
男の一人が、
血を吹きながら倒れた。
盗賊達が、
一瞬で立ち上がる。
「襲撃だ!!」
「どこだ!!」
混乱。
怒号。
ミレイユは、
泣きながら再装填する。
火薬。
弾。
震える手。
それでも。
止まれなかった。
「返してよ……!!」
涙声。
「返せぇぇぇぇっ!!」
二発目。
――ドォン!!
また一人倒れる。
盗賊達が、
一斉に木を見上げた。
「上だ!!」
「ガキだぞ!!」
「殺せ!!」
男達が、
剣を抜きながら木を登ってくる。
ミレイユの呼吸が乱れる。
近い。
速い。
その瞬間。
「うあぁぁぁぁっ!!」
ジークが、
木の上から飛び出した。
振り下ろされる剣。
血飛沫。
盗賊が悲鳴を上げて落ちる。
だが。
ジークは戦い慣れていない。
次の男に押し込まれる。
剣が弾かれた。
「ジーク!!」
ミレイユは、
迷わず木から飛び降りた。
地面へ転がる。
衝撃が足に走る。
だが立つ。
近くに転がっていた剣を、
勢いよく掴んだ。
重い。
怖い。
でも。
ミレイユは叫ぶ。
「お前らがぁぁぁっ!!」
振り抜く。
盗賊が怯む。
ミレイユは、
泣きながら剣を振るっていた。
怒りで。
悔しさで。
叫びながら。
「返せ!!」
「返せよぉぉぉっ!!」
泥だらけになりながら。
涙を流しながら。
それでも前へ出る。
やがて。
最後の一人が、
地面へ倒れ込んだ。
息を切らしながら、
ミレイユは剣を向ける。
男の喉元へ、
切っ先が触れる。
男は、
血を吐きながら笑った。
「ガキのくせに……」
ミレイユの瞳が、
怒りで揺れる。
「あの村に」
掠れた声。
「価値のない民なんていなかった」
剣を握る手が震える。
涙が落ちる。
「価値がないのは――」
怒鳴る。
「お前らなんだよ!!」
男が、
へらりと笑った。
「はっ……
子供が何言って――」
「ふざけるなぁぁぁぁっ!!」
ミレイユが、
剣を振り下ろそうとした。
その瞬間。
ガシッ。
強い手が、
ミレイユの腕を掴む。
次の瞬間。
ゴッ――!!
鈍い音。
男が、
白目を剥いて倒れた。
峰打ちだった。
ミレイユが、
息を呑む。
振り返る。
そこにいたのは。
クロヴィスだった。
銀髪が、
風に揺れている。
灰色の瞳が、
静かにミレイユを見下ろした。
そして。
低い声が落ちる。
「……これ以上、
手を汚さないでください」
ミレイユの手から剣が落ちた。




