表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/110

敵陣発見

山道は、

静まり返っていた。


 


踏みしめる土の音だけが響く。


 


朝靄の残る森。


 


冷たい風。


 


木々の隙間から、

細い光が差し込んでいる。


 


ミレイユは、

無言で前を歩いていた。


 


背には、

重いマタギ銃。


 


その後ろを、

ジークが追う。


 


怖かった。


 


喉が乾く。


 


足も震える。


 


少しでも気を抜けば、

今すぐ逃げ出したくなる。


 


けれど。


 


恐怖より。


 


怒りの方が強かった。


 


焼けた村。


 


泣き叫ぶ母親。


 


泥に落ちたイチゴ。


 


全部。


 


脳裏に焼き付いて離れない。


 


やがて。


 


太郎が、

ぴたりと足を止めた。


 


低く唸る。


 


ヴゥゥ……


 


ミレイユの瞳が細まる。


 


前方。


 


木々の隙間から、

煙が見えた。


 


人の声もする。


 


ミレイユは、

そっとしゃがみ込んだ。


 


「……太郎」


 


小さな声。


 


「下がりなさい」


 


太郎が、

じっとミレイユを見る。


 


だがすぐに、

近くの茂みへ移動し、

静かに伏せた。


 


ジークが、

息を呑む。


 


二人は、

音を立てないよう木へ登った。


 


枝葉に身を隠す。


 


下を見る。


 


そこには。


 


荷車と、

数人の男達がいた。


 


積まれているのは、

村から奪われた野菜。


 


木箱。


 


麦袋。


 


見慣れた印。


 


ミレイユの奥歯が、

ぎり、と鳴る。


 


男達は、

酒を飲みながら笑っていた。


 


「ヴェルディア、

今年あんな豊作だったとはなぁ!」


 


下品な笑い声。


 


別の男が、

酒瓶を揺らす。


 


「今年はラウゼンが凶作だからな」


 


「高く売れるぜ」


 


笑い声。


 


ミレイユの拳が、

小さく震える。


 


そして。


 


別の男が、

にやにやしながら言った。


 


「それにしても、

敵陣に攻め入って正解だったな!」


 


「価値のない連中ばっかだったしよ!」


 


下卑た笑い。


 


その瞬間。


 


ミレイユの呼吸が、

止まりかけた。


 


だが男達は、

まだ笑っている。


 


「そういや、

あの銀髪の男強すぎだろ」


 


「ははっ!

まぁ屋敷守るので必死だったけどな!」


 


「ありゃ笑ったわ!」


 


ゲラゲラと響く笑い声。


 


胸糞悪い。


 


ミレイユの瞳に、

怒りが宿る。


 


今すぐ飛び降りて、

殴りたかった。


 


撃ち殺したかった。


 


だが。


 


ミレイユは、

ぐっと唇を噛む。


 


感情で動けば、

終わる。


 


隣で、

ジークも顔を青くしていた。


 


剣を握る手が、

震えている。


 


その頃――


 


村では、

まだ混乱が続いていた。


 


負傷者の呻き声。


 


泣き叫ぶ子供。


 


焼け焦げた木の匂い。


 


クロヴィスは、

血のついた手袋のまま、

部下へ指示を飛ばしていた。


 


「まだ息のある者を優先しろ!」


 


「医師を北側へ回せ!」


 


低い声が、

張り詰めた空気を裂く。


 


その時だった。


 


「旦那様!!」


 


切羽詰まった声。


 


振り返れば、

アンネが息を切らしながら駆けてくる。


 


普段冷静な彼女らしくない。


 


クロヴィスの眉が、

ぴくりと動いた。


 


「どうした」


 


アンネは、

震える声で言った。


 


「ミレイユ様と、

ジーク様がいません……!」


 


空気が止まる。


 


周囲の騎士達も、

思わず顔を上げた。


 


アンネは、

さらに続ける。


 


「武器庫から、

銃も消えています」


 


沈黙。


 


次の瞬間。


 


クロヴィスが、

深く息を吐いた。


 


額へ手を当てる。


 


まるで頭痛を堪えるように。


 


「あの馬鹿ども……」


 


低い声。


 


だがその瞳には、

明らかな焦りが浮かんでいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ