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何が王よ

許せない。


 


許せない。


 


許せない。


 


その言葉だけが、

ミレイユの頭の中を埋め尽くしていた。


 


泣き叫ぶ母親。


 


泥に汚れたイチゴ。


 


消えた収穫物。


 


昨日まで笑っていた人達。


 


全部。


 


全部。


 


壊された。


 


ミレイユは、

ふらつく足で屋敷へ戻る。


 


廊下は慌ただしかった。


 


使用人達が走り回り、

負傷者の手当てをしている。


 


誰も、

小さな王女に気づかない。


 


ミレイユは、

静かに武器庫の扉を開いた。


 


冷たい鉄の匂い。


 


薄暗い室内。


 


壁に掛けられた、

長い銃。


 


クロヴィスが取り寄せた、

古いマタギ銃だった。


 


ミレイユは、

それをゆっくり手に取る。


 


重い。


 


腕が震える。


 


これは、

命を奪う道具だ。


 


けれど。


 


ミレイユは、

迷わなかった。


 


背へ銃を背負う。


 


火薬袋を掴む。


 


そして。


 


屋敷の外へ出た。


 


朝の空気は冷たい。


 


煙の匂いが、

まだ残っている。


 


ミレイユは、

静かに口を開いた。


 


「……太郎」


 


犬が振り返る。


 


毛並みを汚しながら、

低く唸っていた太郎が、

ミレイユへ近づいた。


 


ミレイユは、

しゃがみ込む。


 


そして。


 


太郎の頭へ、

そっと額を寄せた。


 


「ニオイ、

わかるわよね?」


 


低い声だった。


 


太郎が、

ぐるる……と喉を鳴らす。


 


次の瞬間。


 


犬は、

山の方へ走り出した。


 


ミレイユも、

迷わず後を追う。


 


その時だった。


 


「待って!!」


 


後ろから、

ジークの声が響く。


 


ミレイユの腕が、

強く掴まれた。


 


振り返る。


 


ジークの顔は、

青ざめていた。


 


「何する気なんだよ……!」


 


震える声。


 


ミレイユは、

答えない。


 


ただ。


 


真っ直ぐ前を見ている。


 


ジークは、

さらに強く腕を掴んだ。


 


「行かせない」


 


必死な声だった。


 


「君は次期王だ!」


 


「こんなところで死んだら駄目だ!!」


 


その瞬間。


 


ミレイユの瞳が、

鋭く揺れる。


 


次の瞬間。


 


掴まれた腕を、

振り払った。


 


「……民を犠牲にして」


 


低い声。


 


風が吹く。


 


金色の髪が揺れた。


 


ミレイユは、

真っ直ぐジークを見据える。


 


その瞳には、

怒りが燃えていた。


 


「何が王よ」


 


空気が止まる。


 


ジークが、

息を呑む。


 


ミレイユは、

静かに続けた。


 


「守れなかった時点で、

私はもう失格なの」


 


「だから――」


 


銃を握る手に、

力が入る。


 


「今度は、

絶対に奪い返す」


 


その声は、

震えていた。


 


怒りで。


 


悔しさで。


 


それでも。


 


前へ進もうとしていた。


 


ジークは、

何も言えなかった。


 


目の前にいるのは、

昨日まで畑で笑っていた少女なのに。


 


今はまるで。


 


戦場へ向かう王みたいだった。


 


沈黙のあと。


 


ジークは、

小さく息を吐く。


 


そして。


 


道端へ落ちていた剣を、

静かに拾い上げた。


 


鞘もない。


 


血で汚れた剣。


 


それを腰へ差す。


 


「……僕も行くよ」


 


ミレイユが、

目を見開く。


 


ジークは、

無理やり笑った。


 


「一人じゃ、

絶対死ぬから」


 


強がった声だった。


 


だが。


 


震える手は、

隠せていなかった。


 


ミレイユは、

小さく目を伏せる。


 


そして。


 


ほんの少しだけ笑った。


 


「ありがとう」


 


朝日が昇る。


 


焼けた村の向こう。


 


山道へ。


 


二人と一匹は、

静かに歩き出した。

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