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実りの秋

それからの日々は、

嵐のようだった。


 


夜明け前。


 


まだ空が青く染まる前から、

ミレイユは牛舎にいた。


 


「菊子、暴れない!」


 


「モォ〜」


 


「こら、尻尾を振らないで!

顔に当たるでしょう!?」


 


朝夕の搾乳。


 


餌やり。


 


牛舎の掃除。


 

 


服は泥だらけ。


 


手には豆。


 


王城にいた頃なら、

考えられない姿だった。


 


だが。


 


ミレイユは、

一度も弱音を吐かなかった。


 


昼になれば畑へ向かう。


 


雑草を抜き。


 


土を耕し。


 


害虫を潰し。


 


汗だくになりながら、

村人達と働く。


 


さらに。


 


山際では、

しし垣作りも進めていた。


 


太い木を運び。


 


杭を打ち込み。


 


溝を掘る。


 


重労働だった。


 


それでもミレイユは、

誰より先に動いた。


 


「そっちもっと深く!」


 


「ここ隙間あります!」


 


「獣は力が強いの!甘く見ちゃ駄目です!」


 


小さな体で、

誰より大きな声を出す。


 


そして夜。


 


村の人達が集まっていた。


 


「今日は文字を書きます」


 


ミレイユが、

木炭を手に笑う。


 


「自分の名前、

書けるようになりましょう!」


 


読み書き。


 


計算。


 


作物の管理方法。


 


保存食の知識。


 


ミレイユは、

持っている知識を全て教え始めていた。


 


村人達は最初、

戸惑っていた。


 


だが。


 


少しずつ。


 


少しずつ。


 


村が変わり始める。


 


そして。


 


その全ての合間に。


 


ミレイユは、

一人で木刀を振っていた。


 


夕焼けの中。


 


何度も。


 


何度も。


 


腕が震えても。


 


手の皮が剥けても。


 


振る。


 


振り続ける。


 


それを見ていたジークが、

思わず口を開いた。


 


「……どうして、

そこまでするんですか」


 


ぽつりと零れた声。


 


ミレイユは、

木刀を握ったまま空を見る。


 


赤い夕陽。


 


遠くの山。


 


静かな村。


 


そして。


 


小さく笑った。


 


「守りたいからよ」


 


あまりにも自然な声だった。


 


まるで。


 


それが当たり前だと言うように。


 


ジークは、

言葉を失う。


 


見ているこちらが、

苦しくなるほどだった。


 


こんなにも小さな少女が。


 


誰よりも必死に、

村を守ろうとしている。


 


季節は流れ――


 


秋。


 


乾いた風が、

村を抜けていく。


 


そして今年。


 


畑には。


 


見たこともないほどの実りが広がっていた。


 


赤いトマト。


 


丸々と太った芋。


 


山のような南瓜。


 


黄金色の麦。


 

たくさんの野菜に村人達が、

息を呑む。


 


「……こんなに実ったの初めてだ」


 


震える声。


 


別の女が、

収穫した野菜を抱えながら涙を流す。


 


「野菜が……」


 


「冬を越せる…たくさん出荷もできる…」


 


その声に。


 


周囲の空気が静かに揺れた。


 


去年まで。


 


冬は恐怖だった。


 


飢え。


 


寒さ。


 


死。


 


それが当たり前だった。


 


だが今年は違う。


 


子供達が笑っている。


 


牛が痩せていない。


 


畑が生きている。


 


村に希望があった。


 


少し離れた場所で。


 


クロヴィスが、

その光景を静かに見つめていた。


 


風が、

銀髪を揺らす。


 


灰色の瞳が、

収穫に沸く村人達を映していた。


 


「あんな子供が……」


 


低い声。


 


「ここまでのことをするとはな」


 


隣に控えていたアンネが、

静かに目を細める。


 


「あれから一年が経ちました」


 


穏やかな声だった。


 


クロヴィスは、

少しだけ目を伏せる。


 


最初は、

ただの変わった王女だと思っていた。


 


騒がしく。


 


無鉄砲で。


 


常識外れ。


 


だが今ならわかる。


 


あの少女は。


 


誰よりも、

この土地を見ていた。


 


クロヴィスは、

小さく息を吐く。


 


そして珍しく。


 


ほんの僅かに、

口元を緩めた。


 


「……よくやっている」


 


短い言葉。


 


だが。


 


それはクロヴィスにとって、

最大級の賛辞だった。


 


アンネも、

静かに頷く。


 


「えぇ」


 


「ミレイユ様は、

本当に立派になられました」


 


その時だった。


 


畑の向こうから、

元気な声が響く。


 


「みんなー!!」


 


泥だらけのミレイユが、

大きく手を振っている。


 


その顔は、

太陽みたいに明るかった。


 


「三日後!」


 


「収穫祭をやりましょう!!」


 


村人達が目を丸くする。


 


ミレイユは、

満面の笑みで叫んだ。


 


「お祭りです!!」


 


一瞬の静寂。


 


そして次の瞬間。


 


村に、

笑い声が広がった。

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